スマートフォンとメディア技術・サービス研究
■最も身近な先端的デバイスのスマートフォン
今では私たちにとってすっかり手放せない存在となっているスマートフォン(スマホ)。身近な友だちの日常を垣間見たり、流行のスイーツが食べられるお店の場所を調べたり、その活用の目的や方法は実にさまざまです。もしスマホがなければ、毎日の生活はとても不便なものになるに違いありません。
日本政府は、インターネットなどの「サイバー空間」と私たちが生活する現実世界である「フィジカル空間」を高度に融合する「人間中心の社会」を、Society5.0と定義しています。
その実現のためには、IoTや人工知能(AI)などのICTが、重要なカギを握っています。そして、これらの先端技術を最大限に活用できる最も身近なデバイスが、スマホです。
■スマホに関わる最新のメディア技術・サービス研究
東京工科大学メディア学部では、最新デバイスであるスマホを活用したサービスや最新技術に関する研究を行っています。
(1)新しいインタラクションに関する研究例
研究例のひとつに、複数のスマホを並べて2つずつ指でつまみ合わせることで1つの大きな画面を作る技術の開発があります。また、カメラで他のスマホを捉えることで、そのカメラ機能を自分のデバイスのものとして使えるようにする研究もあります。
このように複数のスマホで実行するアプリを連携させることで、新しい使い方やコンテンツをデザインする研究を行っています。
複数のデバイスを連携して利用するアイデアは、ファイル共有や対戦ゲームなどですでに行われています。これに対して私たちの研究では、アプリが動作しているスマホを、それらが「モノ」であるかのように「くっつけ」たり、「関係づけ」たりできる使い方を追求します。すなわちインタラクションのしくみをデザインしている点が大きな特徴です。
こうしたアプローチは、コンピュータを「操作する」ことから一歩進み、特定の道具として「使う」という、人間とコンピュータの新しい関わり方を提案するものです。それとともに、単独のデバイスだけでは実現できなかった、新たな用途や表現の創造にもつながっていきます。
(2)地図サービスを活用した新しい経路探索技術に関する研究例
近年の地図サービスでは、目的地までの経路探索を簡単に行えることが常識になっています。しかし、それらは汎用性の高い自動車や公共交通機関、あるいは徒歩での移動が対象です。これに対して、車いすやベビーカーなどを伴うことにより移動経路が限定される場合の経路探索に関しては、サービスの提供が追いついていないのが現状です。
そこでメディア技術コースでは、こうした問題を解決するために、オンライン地図データである「OpenStreetMap」を用いた新たな経路検索技術を開発しています。これは、駅構内などのスロープ、階段、およびエレベータなどの設置情報に基づいて、車いすなどでも通れる経路の探索を可能とするものです。
オンライン地図には、地図サービス上で目視できる情報以外にも、例えば制限速度情報など、膨大な種類、量の情報が埋め込まれています。こうした「見えない情報」を多様なサービスに生かすために、人工知能を活用して膨大なデータから必要な情報を効率よく探し出す技術の開発も進めています。
(3)ユーザの健康状態を分析する健康メディアデザインに関する研究例
メディア技術コースには、「健康メディアデザイン」という全国でも他に例を見ない大変ユニークな研究に取り組む研究室があります。「人間にとって最も身近なメディア」として「健康メディア」を捉え、健康改善をめざすためのデザイン手法に関する研究を行っています。
この研究室では、4年生前期に学生が自分自身の健康状態を分析し、その分析結果に応じた健康改善目標を設定します(PLAN)。そして、個別の健康対策の中で最も実施しやすい、あるいは最良の効果が得られそうな対策だけを実施(DO)します。その後、その結果を考察(CHECK)して、日々の健康状態を改善するための行動計画を策定(ACTION)するという、「健康PDCAサイクル」を提案。4年生後期には、スマホ専用のビジュアルプログラミング環境 AppInventor2 を使用して、アプリ開発を行います。
健康メディアデザインの特色は、研究者本人の健康状態を改善することで、本人の能力向上が達成可能なことです。実際、3年後期に配属配属された学生の睡眠力改善や集中力の向上に伴って、配属前の3年前期のGPA(成績評価の指標)の平均値に比べて、配属後の3年後期のGPAの平均値が約0.3向上しました。
さらに、健康メディアデザインという方法論やアプローチは、研究者自ら一生においてより高いQOLを得ることを可能としますし、何よりもこれらの研究成果は2018年現在75億人の人類のQOLの向上に役立てることができるという点で社会的意義が高いと考えています。
■スマホを活用するための最新メディア研究
(4)対話時の話者交替メカニズムに関する研究
私たちが複数の人と対話をするとき、話し手が次々に交替しても、特に大きな混乱が起きないのには理由があります。対面の対話では、視線や身体の向き、ジェスチャーなどの「非言語行動」も、話者交替のタイミングを知らせる重要な手がかりになっているのです。
ところが、スマホでは音声のみによるコミュニケーションとなり、どこで相手が話し終わるのか、いつ自分が話し出すのか、その見極めが難しくなります。
こうした問題を扱っているのが、メディア技術コースの社会言語科学に関する研究室です。ここでは、韻律情報(声の大きさ・速さ)や統語情報(文法的な要素)から、話者交替に適切なタイミングを、人がいかに予測しているのかを調べています。
対話というテーマは、これまで言語学の分野で扱われてきました。しかし、そこでは文法の研究が中心で、その文法が他者とコミュニケーションを行ううえでどのように使われているのかは、全く研究されてきませんでした。また、話し言葉に含まれる韻律情報や非言語行動が、どのように発話に付加され、どのように利用されているのかもわかっていません。これを解明することは、メディア技術コースにおける非常に興味深い研究テーマになっています。
(5)プロダクトデザインとしてのスマホ
メディア学部でプロダクトデザインをテーマとしている研究室では、プロダクトデザインを「人・モノ・空間をつなげるメディアのひとつである」と定義しています。
現代社会のキーワードでもあるIoTも、人・モノ・空間を適切につなげるための概念用語です。その重要な要素であるスマホの適切な活用シーンを提案し、スマホ自体のデザインのあり方を提言することは、プロダクトデザイナーの大切な使命と言えます。
スマホは、人・モノ・空間を強くつなげる典型的なプロダクトのひとつで、特に人と人の関係を構築するモノとして重要な役割を担っています。さらに、各種プロダクトやインフラとのつながりも強まるにつれ、スマホの役割は拡大しています。人と人とのつながりを重視したウェアラブルなプロダクトの範囲を超え、人とモノ、人と空間、モノと空間の構築関係を探るプロダクトにまで発展しているのです。
こうした状況のもと、学生が研究活動でプロダクトデザイン提案に取り組む際は、スマホの事例も挙げながら操作系のUIについても深く考察するよう努めています。
このように、東京工科大学メディア学部では、最新デバイスであるスマホを活用したサービスや新しい技術に関するさまざまな研究を行っています。
今後も、さらに多くの側面から、独自の革新的テーマで研究を展開していきます。