臨床検査学科で取り組む蚕幼虫を用いた研究
2023年12月8日掲出
大学院医療技術学研究科臨床検査学専攻 岩田 航輝(修士課程2年)
医療保健学部臨床検査学科 岡崎 充宏 教授(医療技術学研究科長 臨床検査学専攻長)
医療保健学部臨床検査学科 吉田 祥子 准教授
医療保健学部臨床検査学科で卒業研究に取り組み、研究の面白さに目覚めて大学院修士課程へと進学した岩田さん。今回は岩田さんとその指導教官である岡崎先生、吉田先生に、これまで取り組んできた研究の話や本学科の魅力についてお話しいただきました。
■まずは、岩田さんが臨床検査技師を目指そうと思ったきっかけと、本学を選んだ理由を教えてください。
岩田航輝さん(以下、岩田):母が医療従事者だったので、医療系に進むつもりではいました。ただ、どの分野に進もうかと考えていたときに、たまたま祖母を亡くして。高齢だったこともあるのですが、病気の発見が遅れたという面もあったので、そういうことをなくしたいと思ったんです。そこでどういう医療職があるのかと色々と調べる中で臨床検査技師を知り、自分のしたいことと合致している気がしました。ですから、それまでは臨床検査技師という職業のことは知らなかったですね。東京工科大学に決めた理由は、臨床検査学科ができて数年と新しい環境だったことが大きいです。新しい機械を使えたり、新しい実習室で実習ができたりすることを魅力に思って、受験しました。
■岩田さんと先生方との最初の出会いは、授業ですか?
岩田:授業が最初だと思います。
岡崎充宏先生(以下、岡崎):実習か一年生の座学かな?
吉田祥子先生(以下、吉田):私は一年生の後期の「病理学」を担当しているので、それだと思います。
岡崎:私は「微生物学」を教えていますが、岩田さんのことを学部生時代から知っていたかというと…たくさんいる学生の一人でしたからね(笑)。
岩田:そうですよね。僕はもちろん授業で先生方のことを知っていますが、低学年では特に先生たちに覚えてもらっているような学生ではなかったと思います(笑)。
吉田:卒業研究で関わりが強くなったという感じですね。岩田さんは私が担当する病理系の研究室に所属していました。
岩田:当初は身体から得られた波形や画像をもとに、生体の機能を調べる生理検査に興味があって、3年生の臨地実習もその辺りを詳しく見たいと思って実習に行きました。ところが、当時はコロナ禍で実習自体の規模が縮小され、病院では見学のみと、ほとんど何もできなかったんです。それで生理検査は厳しい状況だなと思って、次に興味を持っていた病理や微生物で卒業研究ができないかと、病理学が専門の吉田先生の研究室を選びました。
吉田:私の研究室所属ではありますが、岡崎先生の研究テーマとコラボレーションさせていただくという形だったので、微生物学がご専門の岡崎先生も指導してくださって。もともとは岡崎先生から共同で研究しませんかとお声がけがあって、始まった研究でした。
岩田:卒業研究の頃から現在まで、蚕(カイコ)幼虫(以下、蚕)を使って新しい感染実験モデルを作る研究をしているので、所属は吉田先生の研究室ですが、感染症のノウハウは岡崎先生から学ぶという形で進めてきました。
岡崎:感染実験は、これまでマウスやラット、犬、ウサギといった動物たちで行われてきたのですが、今、世界中で倫理的に問題視されることが多いため、使用するための大きな壁となっています。そこで、哺乳類の代わりに、昆虫や魚のゼブラフィッシュ、あるいはカエルなどを使おうとなってきています。それらは哺乳類系と組織的には違いますが、似たようなところもありますし、その中で蚕は非常にたくさんの数を扱えますから、実験のモデルに適しているのではないかと。ショウジョウバエや線虫もモデルになっていますから、それと同じ考え方です。その流れの中で、私が蚕の解剖組織を研究したいと吉田先生に相談して、その話に乗っていただいたという感じですね。
吉田:岩田さんより1つ前の年の学生が卒研で取り組んでくれたのですが、さらに正常の蚕の組織形態も見たいという話になって、岩田さんともう二人の学生が卒研で取り組んでくれました。
岡崎:蚕を使った実験の研究は、以前、私の研究室で手がけていたんです。その学生が卒業して、外部の大学院へ進学したのですが、私としてはその研究を継続したいと思っていて。ただ、もう一歩、研究を進めるには、病理組織学の要素が必要だと思っていました。要するに、蚕のどこにバクテリア(細菌)が感染するのか、なぜ蚕は死ぬのかといったところを突き止めたかったのです。それには病理学的解剖が必要だと思い、吉田先生に相談したという経緯だったと思います。
■岩田さんの研究内容をもう少し詳しく教えていただけますか?
岩田:4年生の卒研では、蚕幼虫に菌が産生する毒素を直接注射して、その毒素がどういう組織に障害を起こすかという研究を行っていました。つまり、蚕に感染症を起こさせるんです。その感染した蚕を解剖して、組織を一つずつ見ていたのですが、比較できる組織データがなく、手探り状態だったこともあって、あまり明確な結果が得られませんでした。そこでもう少し研究を続けて不明瞭だったところを明らかにしようと大学院に進学したんです。大学院では比較データとなる正常の組織を作るところから始めました。蚕を輪切りにして組織を見るという先行研究があったので、その方法に倣ってやってみたところ、きれいな組織ができたので、今度はそれを使って別の菌を注射し、それがどういう感染や障害を起こすかということを調べています。ですから、卒業研究から大学院の今まで3年間、蚕にどっぷりです。吉田:私の立ち位置は、岩田さんがどんどん研究を進めてくれるので、どちらかというと見守り役みたいなところです。何か聞かれたら、相談に乗ったり一緒に調べたりといったサポート役ですね。
岩田:例えば、組織の染色方法の相談をしたりしました。先生方からアドバイスを頂いたら、すぐ試してみるという感じで取り組んできました。
吉田:病理の担当教員は、私ともう一名、佐藤瑞穂先生という方がいらして。その先生も含めて3人で相談しながら、進め方や最適な方法についてアイデアを出し合ったりしています。
岡崎:私は細菌を取り扱うことが専門なので、岩田さんに細菌を渡して、それを直接、蚕に摂取する方法を伝授しました。小さい蚕にも消化管があって皮膚があり、その隙間のリンパに細菌を注入するんです。その技術をマスターしてもらいました。あとは細菌が蚕の中でどういう形態を示すのかを、彼が解剖したものを私も一緒に顕微鏡で見ながらディスカッションしたりしてきました。
■ご研究では、どんなところに苦労しましたか?
岩田:蚕を輪切りにする前に、組織を切りやすいように固めて、そこから薄く切るのですが、それが一番難しかったです。岡崎:まず蚕を切って、さらにその断片をパラフィン包埋といってパラフィンというろうそくの原料の中に埋め込んで固め、それをすごくよく切れる刃物でかなりの薄さに切るんですよね。
岩田:3マイクロメートルの薄さです。
岡崎:顕微鏡で光を透過して見るには、そのくらい薄くしないと見えませんからね。
岩田:そのためにも、うまくスライドにできるように技術を上げていく必要がありました。工程の中でも最も難しかったのが、この切る作業です。3マイクロメートルを2~3回連続で切らないと、断面が変わってしまいます。その連続で切るところが難しくて。ちょうど夏にかけて卒研に取り組んでいて、だんだん室温が高くなってくるとパラフィンで固めている組織がやわらかくなり、切れなくなってきます。ですから、なるべく早く切る必要がありました。そういう技術は、すごく上がったと思います。
岡崎:今も蚕は実験のために、700匹ほど育てていますが、その世話も大変だよね。
岩田:人工餌を切って与えたり、蚕が大きくなってきたらスペースが狭くなるので移動させたり、色々とすることがあって忙しいです(笑)。
■振り返ってみて、印象に残っている授業はありますか?また、東京工科大学を選んで良かったと思うところは?
岩田:実験や実習全般が、本当に面白かったです。高校時代の延長線のような基礎的なものもありますが、そうではなく医療分野独特の実験もあって。例えば、ブタの組織片を切ってスライドにして観察したり、微生物を培養して抗菌薬の感受性を調べたり。そういう医療系でないとできないような実習もあるので、すごく新鮮に感じられました。本学の臨床検査学科で学んで良かったと思うのは、この学科自体が今年で設立9年目ですから、環境がすごく新しいところです。病理で使う道具には、実際に病院の第一線で動いている最新の機械もあります。将来、病院で働くことを考えれば、新しい機械で実習できるのはとても良いことだと思いますね。あとは、先生方がみんな優しくて、フレンドリーなところです。学生から話を聞きに行けば、何でも丁寧に教えてくださるので、そういう点も良いところだと思います。とはいえ、僕自身は学部生の頃、それほど質問に行く学生ではありませんでした(笑)。先生方に質問に行くようになったのは、大学院生になってからです。だからこそ、学部生時代から聞きに行けば良かったなという反省もありますし、逆に先生方は話しかけやすい雰囲気をつくってくださっているように思います。
岡崎:大学院では、ほぼマンツーマンの指導になりますからね。そこが学部との大きな違いだと思います。院生は積極的に質問してくれるし、よく話します。卒業する頃には、学生自身、かなり自分から話せるようになっています。あれだけ大人しい印象だった学生が、こんなに話すようになったの?というぐらい変わります。岩田さんもそういう面があるのでは?
岩田:そうかもしれません(笑)。
吉田:私は卒研時代から見てきましたが、学部のときは大勢いる学生の一人ですし、卒研で蚕を研究していたときも、3人1チームで取り組んでいましたからね。そんなにたくさん質問に来る感じではなかったように思います。ですから大学院生になって、よく話すようになったという印象です。まめに連絡や相談をしてくれるので、こちらも色々と頼みやすく、とても頼りにしています。今は、TA(ティーチングアシスタント)や国家試験対策で学部生の面倒も見てもらっていますし。
岩田:大学院では、単独で研究に取り組むということが大きいのかもしれません。卒研の頃は、一緒に取り組んでいたメンバーの一人が先生方によく質問に行くタイプの学生だったので、その人に任せていた面もあったように思います。ですが、大学院では自分一人で色々としなければならないので、その辺は成長したところかも知れません。
■では、国家試験対策として、何か自分なりに工夫したり取り組んだりしたことはありましたか?
岩田:僕の場合は、いつも一緒にいた仲間に優秀な人が多かったので、かなり刺激を受けて、時間がかかりそうな苦手科目は早めに勉強を始めていました。というのも4年生になると卒業研究が始まって忙しくなります。なので、時期的には3年生の臨地実習(10~12月)が終わった後、年明け1月頃から少しずつ勉強を始めていました。3年生の12月に模試があって、周りの結果を聞きましたが、仲間たちはみんな良い成績だったので、これはまずいと思ったということもあります(笑)。吉田:卒業研究が4年生前期の4月から始まって9月に卒業研究発表会があります。それ以降はもう国家試験対策、一色です。
岩田:そうですね。卒研発表が終わってからはずっと仲間5~6人で、学校の自習室で勉強をしていました。わからないところを聞き合ったり、誰かが説明している話を聞いたり。大学でも国家試験の対策授業が科目ごとにあったので、それに出席したあと、自習室で仲間たちと勉強することが多かったです。
吉田:国家試験それぞれの科目に担当教員がいるので、その対策講義があったり、あとは学外から先生を招いてレクチャーしていただいたりする機会も設けています。模擬試験もありますし。
岩田:結局はほぼ毎日、学校に来ていましたね。家にいると、どうしてもだらけてしまうので。仲間同士で集まって、ある意味でお互いを監視し合いながら勉強したほうが、集中できたように思います。
岡崎:歴代の学生たちがそういう形で勉強してきたよね。その方が、お互いに刺激し合えますから。自分が覚えにくかったところを、他の人はこういう風に覚えているんだと知る機会になりますから。岩田さんのように5、6人くらいのグループで取り組んでいけると良いのですが、最近は、そのグループの人数が減って、小さくなってきている印象です。私自身、本学科設立当初の1、2期生と比べてしまいがちなのですが、初期の学生たちは、周りに先輩も誰もいない状況だったので、すごく団結して学び合っていた印象でした。それが年々、グループの規模が小さくなってきている気が…。
吉田:コロナ禍の影響もあるのかもしれませんが、平均化していて、全体に大人しくなりつつあるのかもしれません。
岡崎:そうですね、コロナ禍を経て、人との関わりに遠慮があるのかもしれません。1~3期生の頃は、常に学生が研究室に入り浸って、全然帰らないくらいでしたし(笑)、質問もたくさんしに来ていました。ですから、遠慮せずに気軽に教員と関わってほしいですね。
■今後の進路についてお聞かせください。
岩田:今は博士課程への進学を考えています。ただ、本学科には博士課程がないので、外部の大学院に進むつもりです。ですから研究分野は、かなり変わると思います。岡崎:岩田さんのように、外部大学院の博士課程へ進学するケースもありますが、そうではなく修士課程修了後、病院へ就職して社会人になる学生もいます。そういう人たちにも、いずれは博士課程に入って博士を取ってほしいと思っているんです。去年、私は5人の修士生を卒業させましたが、みんな病院へ就職したので、博士課程への進学はありませんでした。ですが、「修士で終わってはいけないよ」と言っています。せっかく修士まで行ったのだったら、博士まで取ってほしい。そうすると、見える景色が変わってきます。博士号を取ると、私たち教員のように大学のような教育の場に立つことができます。それから国際学会へ行けば、世界中の人が研究のことを話してきます。臨床検査技師の資格は、日本国内でしか使えませんが、博士号は世界で通用するんですよ。博士号の取得によって、とても視野が広がります。若いうちから、そういうことを目指してほしいですね。
岩田:僕の場合は、自分の性格的に社会人として働きながら、というのは難しいだろうと思ったところもあって、そのまま博士課程へ進学することにしました。また、就職せずに博士号を取ると、その先は病院への就職ではなく、企業などの研究所で研究職に就くというルートが一般的になります。僕は研究職の方が向いているように思う面もあって、博士課程へ進学しようと考えています。
■先生方は学生に大学院への進学を検討してほしいとお考えのようですが、その理由は何でしょうか?
岡崎:私は臨床経験が長くて、34年間、現場にいました。毎日、100件、200件と患者さんの検査材料が届くわけですが、それらがどれも同じものがなく、それぞれ違っています。その中でときには、教科書に書かれていないような事例が出てくることがあるんですよ。それが研究をする一つのきっかけになります。それを深く掘り下げていき、何かを明らかにして論文で発表をするわけですが、この経験は非常に重要です。なぜなら、また同じような事例が出てくることがあるからです。そうすると、前に調べた結果が分かっていれば、それをすぐに医師にフィードバックできます。それがまた次に活かされるというのが、一つの医療の進歩なのです。そういう何かイレギュラーを見つけるセンスを大学院で身に付けてもらい、それを現場で活かして医療の進歩につなげる人になってもらいたいと思っています。吉田:いずれ患者さんのためになるという考えで、そのために必要なこと、できることを見つけてもらいたいですね。その選択肢のひとつに、大学院進学があるのだと思います。
それぞれの人が、それぞれ楽しみながらも努力していけば、より良い世の中に向かっていくだろうと思いますから。卒業後、社会に出ても勉強は終わらないと思うので、努力を続けていってほしいです。
岡崎:こういう話は自分の研究室にいる学生には、話す機会があるのですが、全体に対してはまだありません。とはいえ、私は今年から研究科長になったことを機会に、1年生対象の「微生物検査学」の授業の中などで、大学院での研究の面白さやその重要性を伝え始めてはいます。1人でも多く、大学院へ進んでもらいたいですからね。
■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。
岩田:僕自身は、ネームバリューや伝統校ではなく、自分がここで学びたいと思う大学を選ぶことを大事にしました。繰り返しになりますが、本学科は設立してまだ何年も経っていない新しいところだったので、新しい設備や環境で学べることに魅力を感じたわけです。それはオープンキャンパスに参加して、現地を見たからこそ思えたことです。大学の環境や雰囲気は、実際に見に行かないとわからないですから、気になっている大学のオープンキャンパスには参加することをおすすめします。本学は駅から近く、雨の日も便利なのですが、そんなふうに実際に歩いてみてわかること、感じることもありますから。吉田:これから大学生になるみなさんには、大学生活を勉強も含めて楽しんでほしいですね。あとは、ぜひ自分の意思で入学してきてほしいという思いがあります。自分が卒業後、どのように世の中の役に立っているか、どうなっていたいかをよく考えてみてください。というのも特に医療系は、家族や周囲からの勧めで入学してくる人も少なからずいるからです。入学してから「この道で良いのだろうか?」と悩まれると、こちらもどうサポートすれば良いのかと悩んでしまいます。ですから、進路を決める際は、みなさん自身の意思を大切にしてください。
岡崎:本人の意に反して、4年間、嫌なことを学んでもらいたくないですからね。私も1年次の授業を持っているので、そこでは必ず言うようにしています。自分でこの道を学び続けられるかどうか、この1年間で判断しなさいと。まだ若いうちは、学部を変えることもできますから。勉強してみたけれど、思っていたことと違う、自分はこの道じゃないと思ったら、自分の意に沿った分野へ軌道修正できます。
吉田:そうですね。
岡崎:私からは、臨床検査技師と聞くと多くの高校生たちは「何それ?」となるだろうと思いますが、非常に魅力的な職種だということを伝えたいです。医師が診断をする際、絶対に必要となるのが検査です。血液や尿の検査、あるいは心臓の鼓動、色々な電気的な信号や超音波による検査。それらをプロとして手がけ、きちんと報告することで、医師が正確に早く診断できるわけです。一方で大学院では、何かわからないもの、未知のものを自分の手で分析・解析して明らかにする面白さ、そしてそれを論文にすることで世界中をあっと驚かせるといった魅力的なこともできます。医療の現場で必要とされ、研究職としても活躍できるという意味では、臨床検査は活躍の幅が広いと言えます。ですから医療分野に興味があって、実験や生物が好きな方はぜひ一度、検討してみてください。国家資格も取得でき、卒業後は必ず就職できるという強みもあります。病気の発見につながるという意味では、非常に重要な分野ですから、やりがいも大きいですよ!