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原因不明の病気を患う人の体内でどんな酸化が起きているのかを把握し、その原因を明らかにしたい!

2023年1月27日掲出

応用生物学部 食品・化粧品専攻 化粧品コース 藤沢章雄 教授

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大学卒業後、企業の野球部で活躍し、再び大学の研究室へ戻ったという経歴をお持ちの藤沢先生。抗酸化物質や酸化ストレスの研究に携わり、現在は酸化ストレスと病気の関連性に注目した研究に取り組んでいます。今回はいくつかの研究例を取り上げて、お話しいただきました。

■先生の研究室「抗酸化物質化学研究室」では、どんな研究に取り組んでいるのですか?

 当初は酸素という“毒”と戦うための武器である、抗酸化物質をテーマに研究していました。現在はそこからさらに進展して、酸化ストレスと病気に関する研究に取り組んでいます。酸素が“毒”という話から始めると、そもそも生物は酸素のないところで誕生し、地球上に酸素が溢れた時に、一度、絶滅しました。そこから生物は蘇ってきたわけですが、その蘇ってきた生物は、毒ガスだった酸素を逆に利用するようになりました。これが私たちの大昔の祖先の話です。
 今、私たちの体は、酸素なしでは生きていけませんが、一方で酸素が生物の体へ与える負担や影響は少なくありません。化学的に見ても、酸素は反応性が非常に高いため、生物がそういうものを利用するようになったということは、なかなかエポックメイキングなことだと思います。
 大気中の酸素濃度は20%ほどありますが、人の体内の酸素濃度はかなり低く、エベレストの山頂と同じぐらいの2~5%ほどだと言われています。酸素を吸わないとエネルギーはつくれないため、生物全体としては酸素が必要ですが、細胞レベルで言えば、酸素は低く抑えておかないと、負担が大きいです。一方、人の体内で大気と同じ20%の酸素濃度を持っているのは、皮膚と肺しかありません。そういう意味では、肺や皮膚は酸化されやすいと言えますし、逆に言えば、酸化に強い組織でもあるわけです。ですから人間が肌から年を取ると言われるのも、あながち間違いではないようです。
 このように酸化は老化や衰えにも密接に関係しています。ですから、私たちの体内には酸素に対抗する抗酸化物質がありますし、そういうものが欠かせません。私たちの体内は基本的に酸化反応と抗酸化反応のバランスを取って成り立っていますが、状況によりそれが崩れると、体に良くないことが起きると考えられています。それを酸化ストレスと言います。こう聞くと、酸化ストレスは悪いことのように思えますが、最近では悪いことばかりではなく、人間の成長を促す刺激という考え方もなされています。
 例えば、赤ちゃんはお母さんのお腹の中にいる時、酸素濃度2%ぐらいのところで生活しています。しかし、生まれてきて最初に呼吸をした段階から、今度は大気中の酸素濃度20%の世界で呼吸するため、それだけの濃度の酸素を一気に肺の中に入れます。それにより赤ちゃんの体は、ものすごく障害を受けるのです。生まれて間もない新生児の皮膚が黄色がかる新生児黄疸が起こるのも、それが原因になっています。赤ちゃんはお母さんのお腹の中でぬくぬくといたところから、いきなり外へ出されてストレスを受けるのです。しかし、それが引き金となって、赤ちゃんの体が一気に体内仕様から体外仕様へと変わり、強くなっていきます。
 このように最近では、酸化ストレスは悪いことばかりではないという考え方もあります。とはいえ、過度な酸化ストレスは、当然、体に良くありません。例えば、炎症は慢性も急性も、酸化ストレスが関与していると考えられています。そこをどう捉えるかということに、今、私たちは研究として足を踏み入れています。つまり、体の中でどういう酸化が起きているのかを、病気などを中心に解析していく医化学系の研究に取り組んでいるのです。

■具体的には、どういう研究例がありますか?

 炎症の例として、敗血症があります。これには非常に強い酸化が関与していると、私たちは考えています。敗血症は血液内に菌が入ることで全身性の炎症が起きる病気で、これほど医療が発達している現在でも非常に致死率が高く、罹患すると8分の1ぐらいの方が亡くなります。そういう病気に酸化ストレスが関与しているのであれば、それをうまくコントロールできれば、生存率を上げられるかもしれないと研究を始めています。
 また、今、精力的に取り組んでいるものに、尿酸という化合物の研究があります。尿酸は非常に悪玉扱いされていて、尿酸が増えると痛風になりますし、動脈硬化を引き起こしたり腎臓がダメージを受けたりすると言われています。
 ここでも進化の話に関係しますが、元々、動物は尿酸を代謝するように進化してきました。ところが人間とそれに近い霊長類は、進化の過程で尿酸の代謝経路をわざわざ捨てて、進化に逆行するように、体内に尿酸を溜めるような仕組みを採っています。基本的に、進化は生物にとって有利に働くから起こるため、そこには何かしら有利な点があるのだろうと推察されます。
 例えば、尿酸値の高い人、特に痛風患者は、神経疾患がとても少ないです。これは明確に有意差が出ていて、痛風患者にはアルツハイマーを中心とした神経疾患が有意に低いことが分かっています。ですから尿酸には神経保護効果があり、それはもしかしたら抗酸化活性と関係があるのかもしれません。実際に尿酸は優れた抗酸化物質で、体の中で作用していると考えられていますから、私たちもそこにフォーカスして研究を進めているところです。
 具体的な話をすると、体の中で酸化ストレスを引き起こすのは、活性酸素種と言われるものです。活性酸素と言うと、体を酸化するものだと、ご存知の方も多いと思います。実はこの活性酸素には色々な種類があり、それぞれに反応経路が違っています。そうすると、ひと口に酸化ストレスによって体が障害を受けると言っても、どんな活性酸素種が発生して障害が起きているのかがわからないと、手の打ちようがありません。逆にそれがわかれば、なぜ体はそういう反応をしたのかということがわかり、病気や障害の根本原因がわかる可能性が非常に高いです。
 尿酸は、反応する活性酸素種に応じて、異なる化合物をつくります。それを追いかければ、その患者さんの中でどんな活性酸素種ができたのかがわかるだろうと考え、私たちは研究してきました。この尿酸と活性酸素種の反応生成物を追いかける研究に着手して約10年が経ち、現状、ようやく全ての活性酸素種を網羅的に解析できるようになりました。これからは敗血症や、神経疾患の例ではALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者さんの分析に力を入れ、患者さんの体内でどういう活性酸素種が出ているのかを明らかにしていきたいと考えています。特に神経疾患は原因不明のものが多いので、患者さんの体内で何が起きているのかを正確に把握することが重要だと思っているからです。
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■先生はどのようなところに研究の面白さを感じていますか?

 私が研究を始めた頃から、活性酸素種の種類はある程度、提唱されていました。当時は「本当にこんなものが体内で出ているのか?」と言われていたものも、最近では実際に出ているとわかってきています。例えば、昔は皮膚にあるとされてきた活性酸素の一種である一重項酸素も、今では体の中でかなり重要な働きをしていることがわかってきました。このように、今まであったものが今までとは違う体の場所で見つかったり、全く新しいものが見つかったり、色々と変化があって面白いです。
 また、追いかけていた物質が、実際に患者さんの血液から見つかった時は、仮定していたことが実際に体の中で起きていたとわかるので、うれしいです。一方、全く想像もしていなかったものが出てくることもあって、それをどう説明しようかと試行錯誤するのも楽しい。案外、新しい知見は、得られるものだと、最近特に実感しています。

■先生が今の研究分野に入ったきっかけを教えてください。

 私の大学は入学してから学部を選ぶ制度になっていて、大学時代は野球部に所属していたことから、先輩のいた工学部反応科学科を選びました。研究室を決めるときも、特にこだわりはなかったです。というのも、当時すでに卒業後の進路として企業の野球部に内定が決まっていたので、とにかく卒業できれば良いくらいに思っていて。ところが所属した酸化ストレスの研究室で、冒頭に話した“酸素は毒”という話を知り、私自身、かなり衝撃を受けて、酸化ストレスは面白いと思ったことを覚えています。
 そのまま学部を卒業して予定通りに就職し、企業の野球部に所属して4年が経ち、部を引退しました。その時に、そのまま会社に残って働くこともできましたが、大学の研究室でお世話になった恩師に野球部引退の報告へ行った際、改めて研究室の雰囲気に触れて、「研究って良いな」と思ったのです。
 というのも私が卒業研究に取り組んでいた頃、実験に失敗して、泊まり込みでやり直しをすることが少なくありませんでした。すると、同じように残っているゼミの学生が他に何人もいて。彼らや先輩たちと話したり、食事したりしながら、実験に取り組みました。彼らと研究の話をしていると、自分の考えていることに気づけたり、色々なアイデアにつながるきっかけをもらえたりして。その時間が私にとっては、本当にありがたく、かけがえのないものでした。そこから研究の面白さに目覚めたんですよね。その経験があったからこそ、企業の野球部を引退後、再び大学の研究室に戻る選択をしたわけです。そこから私の研究の道が始まっています。
 ですから、うちの研究室でも基本的に大学院生が4年生の面倒をみる形にしていて、逆に教員である私はあまりそこにタッチしないようにしています。学生同士でわいわいディスカッションしているという環境が良いと思っているからです。

■今後の展望をお聞かせください。

 今、取り組んでいる研究で最も重要なことは、原因不明の病気を患う患者さんの体内で、どういう酸化的イベントが起きているのかを正確に把握するという病気の理解です。そこの手助けをしたいということが、ひとつあります。
 それが実現できれば、つまりこの病気は本当に酸化ストレスが関与して起きているとわかれば、新たに抗酸化療法という治療法の開発にも繋がるだろうと思います。あるいは、酸化ストレスは関わっているけれど、その症状が出ているのは、別の経路だということが明らかになっても、それはそれで面白いです。いずれにせよ、研究によって病気の起こる理由を明らかにすることが大切だと思っています。
 また、私自身が野球選手だったこともあり、スポーツ系の研究も手がけたいと考えています。運動をすると、酸素摂取量が上がるわけですが、その時に酸化ストレスはどうかかっているのだろうかと。実際、必ず酸化ストレスはかかっているはずです。ところが運動をして不健康になる人は、あまりいませんよね。過度な運動は体に良くないですが、基本的には運動することは健康につながります。それには、やはり人間の体に刺激を与えてくれる、よい意味での酸化ストレスの働きがあるからではないかと考えています。その境目となる値を見つけることができたら、とても有意義だと思っています。ですからゆくゆくは、酸化ストレスの研究を運動の分野にも広げていきたいですね。

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 大学で研究をすることのモチベーションや魅力のひとつに、“学会”へ参加することが挙げられます。学会は国内外、さまざまな場所で開催されるので、色々なところに行けます。私の研究室では、毎年、国内学会に参加していて、頑張っている4年生を連れていくことも少なくありません。ついこの間は、ニュージーランドの学会に大学院生を連れていきました。その中で1名が、優秀な発表をした若手研究者に贈られるYoung Investigator Awardを受賞しました。過去にもこのような海外の学会で発表して、受賞した学生がいます。こういった経験は、彼らの自信につながるとともに、さらなる研究活動に向けて背中を押してくれるものです。今後の彼らの成長を楽しみにしています。ですから大学に入ったら、研究に邁進して、ぜひ外へ出る機会を楽しんでほしいと思います。
 また、先ほどお話ししたように、私自身は「この研究をするんだ!」という強い気持ちで入った研究室ではありませんでした。ですが研究室で仲間とディスカッションしながら研究に取り組んでいくことは、とても楽しかったですし、そこから研究に興味を持つようになりました。ですから最初から強いモチベーションを持って大学に入る必要はないのかもしれません。したいことや興味が決まっている人はそれに向かって頑張れば良いですが、そうでなくても、大学の中で何かしら出合いがあり、そこから影響を受けたり、研究が面白いと思ったりするきっかけがあるはずです。それによって、進む道は想像もつかない方向に変わることがあります。ですから大学で「何かに夢中になりたい」「このまま終わりたくない!」という方は、ぜひ、本学の研究室で切磋琢磨して、海外の学会での受賞を目指すなど、チャレンジしてほしいですね。