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新しい化学反応を見つける研究って?

2023年6月9日掲出

工学部応用化学科 上野 聡 准教授

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世界でまだ誰も合成したことのない有機化合物や化学反応を見つけようと研究している上野先生。今回は、先生のご研究内容や研究の道に進んだきっかけなどをお聞きしました。

■先生のご研究について教えてください。

 私の研究室「有機合成化学研究室」では、有機化合物の新しい合成方法を開発することに取り組んでいます。私たちの身の回りにあるほとんどの化合物は、有機化合物です。人類がそのつくり方を発見して、活かしてきたわけですが、見方を変えれば、発見したつくり方でつくれない化合物は、まだ知られていないとも言えます。というのも、分子には私たちが想像もできないほどたくさんの組み合わせがあり、そのごく一部の反応パターンを人間が見つけて利用してきたに過ぎないからです。つまり、人類にとって未知なる現象が今日の実験で見つかるかもしれず、それが未来を大きく変える可能性を秘めていると考えられるのです。
 そうした背景から、私の研究室では、これまでに合成できていない有機化合物を合成することや、苦労を重ねて合成しなければならなかった有機化合物を簡単に合成できるようにしようと取り組んでいます。
 具体的には、カルボニル基という炭素と酸素が二重結合した官能基に着目しています。例えば下記の反応式は、従来までは知られていなかった反応ですが、一番左の構造式にある赤いOと、その隣の構造式のBと、矢印の上のRu(ルテニウム)、additive(ここではピロリジン)の4つを混ぜた時にだけ、この反応が起こることを見つけました。

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ケトンをアルケニル求電子剤とする炭素–窒素結合の切断を経るクロスカップリング反応


 このように、化学式の中に何を入れると反応するかを探すことが、私の研究です。分子の組み合わせは、無限にあると言えます。ですが、ほとんどのものは誰もつくったこともなければ、想像したこともないものです。それをつくることができれば、いつか何かに利用できるかもしれません。この反応式は、研究室の大学院生が3年かけて見つけたものです。その論文はアメリカの化学会誌でトップ20に入るほどダウンロードされ、たくさんの人に読まれています。

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■何を加えて、どのような反応を起こそうといった目標は、どのように設定するのですか?

 私の場合は、目的のものをつくることより、そこで偶然、見つけた現象に対して面白さを感じています。ですから、この研究室でも、そういう反応をどんどん見つけていこうと進めています。化学反応は“収率”というものがあって、例えば、100個の分子を混ぜた時、80個の分子は目的のものになったけれど、残り20個は目的以外の何かになります。私の場合、その目的以外のものになった20個が何になったのかを、常に意識しながら研究しています。つまり、色々と仮説を立てて実験をしていくと、想像していなかった新しい物質ができることがあります。それは、想像できなかった反応ですから、見方を変えれば一つの発見でもあります。
 このように研究をすればするほど、新たな問題が生じ、追求したいことがどんどん出てくるような状態です(笑)。その中で、新しい発見ができるということは、私にとっても学生にとっても、モチベーションであり、面白さだと言えますね。

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■先ほど大学院生が発見した研究例の話がありましたが、学生はどのように研究に関わるのですか?

 大学院修士課程の学生の場合は、一人で一つの新しい反応を見つけて論文などの形で発表して卒業していきます。みんな自分が見つけた反応として愛着を持っているように感じます。学部生は、卒業研究として約1年しか研究する時間がないので、一人で何かを発見し試行錯誤を経て形にすることは、正直難しいです。それでもなんらかのきっかけを見つけたり、誰かの研究を引き継いだり、誰かを協力して進めたりして、研究の一部分を担うような形で研究に取り組んでいます。

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■先生が今の研究分野に興味を持ったきっかけは?また、研究の道へ進んだ理由を教えてください。

 実は、高校生のときは化学には興味がなくて(笑)。もともとは物理が好きで、大学でも物理を学ぶつもりで、物理・化学・生物が全て混ざった工学部応用自然科学科というところに入ったんです。そこは、2年次にどの分野を専門にするかを選択する形でした。ところが、大学に入って学ぶうちに、その考えが変わっていって。
 高校時代の物理は、ものを投げてできる放物線の軌道など、比較的実感しやすいものを扱っていたので、勉強していてもイメージしやすくて楽しいと感じていたんです。逆に化学はわからないことが多くて、実験もそれほどなかったので、好きではありませんでした。ところが大学に入ると、深く学ぶことができ、系統立てて考えられることを知りました。何かと何かを混ぜるとこうなるという反応には理屈があり、その原理が理解できたので、今度は化学が一番現実的に感じられるようになってきて。目に見えない分子や原子の小さな世界のことでも自然に感じられたので、面白さが増してきました。
 研究の道へ進んだ大きなきっかけは、所属した研究室のおかげだと思っています。私のいた研究室では、みんなの研究への気概や勢いがみなぎっている、研究へのモチベーションが非常に高い研究室でしたね。学部生だった私は、そんなところへいきなり飛び込んだので、何かに夢中になるとはすごいなと感じたことを覚えています。先生方に引っ張られて、学生たちも何かすごいことを発見したいと熱心に研究していましたからね。そういう環境の中で、学生同士でもよく議論したりして、私自身、化学や研究の楽しさを知っていったという感じです。

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■今後の展望をお聞かせください。

 やはり何か新しい発見をしたいですね。先ほどもお話ししたように、具体的にこの物質ということではないのですが、とにかく新しい反応を見つけたいです。また、最近は教育の大切さや奥深さを実感するようになりました。自分が何かを発見するより、学生が新しい発見をして喜んでいる姿を見る方がうれしく思えるようになってきています。ですから学生には、限られた時間の中で研究できる最大限の能力を発揮させ、その成果を世の中に発表できるようにしてあげたいと思っています。達成感や自信をつけて卒業してもらいたいですし、彼らの成長が教員としての喜びですから。
 また、学生には何かに夢中になって真剣に取り組むことも経験してもらいたいですね。何ごともある程度、続けないと、面白さは感じられないと思いますが、行き詰ってなかなか前進できないと「自分にはできないのかも」と諦めそうになることがあると思います。ただ、そうした場合でも何かをきっかけに、ぐんと進展することが多々あります。私としては、学生とよくコミュニケーションを取ることで、何に行き詰っているのかを把握し、今、その学生が無理なくできることをアドバイスするように心がけています。そうすると、少しずつでも何かが進み、急に伸びることがあるからです。そうなれば夢中になって取り組めますし、簡単に諦めることもなくなります。そういうことを今後も学生に伝えていきたいですね。

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■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 勉強を理解するのに時間がかかる人もいれば、器用にできる人もいます。私自身は、どちらかというと、時間がかかるタイプでした。また、早く理解できる人の方が、テストで良い点を取れたりするので、優れているように思うかもしれません。ですが長い目で見れば、どちらも大きな差はないと思います。色々なことが気になって、考えが広がってしまい、目の前のことをすぐに理解できないというのも、ひとつの特性ですからね。また、理解に時間がかかるということは、じっくり考えているとも言えるので、大学の研究では重要になることもあります。理解に時間がかかる人は、すぐにはできなくても、時間をかけて自分なりの解決方法を見つけてほしいと思います。そうすれば、いずれ早く判断したり理解したりできるようになるはずです。
 また、方程式では未知のものをXとして計算しますよね。そんなふうにわからないことは、わからないままで、前に進めてみることも大事だと思います。なぜなら、やってみないとわからないことがあるからです。全力で考えて、ここから先はもう行動してみないとわからないところまで考えたら、あとは一歩踏み出して、行動するだけです。ある程度、考え尽くしたら、実行してみるというバランスを大切にしてください。