手軽に利用できるIoTやICTを使って、学生と一緒に臨床検査学の課題を解決しようと研究しています!
医療保健学部 臨床検査学科 佐々木 聰 教授
分析化学を専門とする佐々木先生は、医療保健学部臨床検査学科と応用生物学部の両方の教壇に立っておられます。今回は、今なお続くコロナ禍での臨床検査学科の授業や本学科で取り組んでいる研究について、お聞きしました。
■新型コロナウイルス感染症の流行が続く現在、医療保健学部臨床検査学科では、どのように授業を進めているのですか?
基本的に、これまで座学で行なわれていた授業のほとんどは、オンラインやオンデマンドといった遠隔授業で実施しています。ただ、臨床検査学科には、どうしても対面で行なわなければならない実習があります。それらに関しては、後期から学生の人数を半分に減らし、複数回、実習室で同じ内容の実習や実験をする形で進めています。また、できるだけ学生が実習室に長時間とどまることのないよう、学内で使用してきたeラーニングシステム「Moodle」を使って事前に資料動画を見てもらい、実習内容を予習してきてもらっています。この予習をしてきてもらうという点は、近年、話題の“反転授業”の方法でもあります。もともと本学では“反転授業”を強く推奨していたので、今回はそれを試す良い機会になりました。
また、思い切って遠隔授業にしたIoT(Internet of Things)やコンピュータを使う実習では、あらかじめ各自が自身のパソコンでソフトウェアに触れておくなど、予習をしてもらうことで、普段よりも高い教育効果を得られている印象がありますね。他にも、メンタルや体調に問題を抱えていて、これまでなかなか通学できていなかった学生が、遠隔授業によって学ぶ機会を得られたこともメリットのひとつだと感じています。
このように臨床検査学科では、比較的スムーズに遠隔授業を進めることができています。それには本学の全学生がパソコン必携であることと、コロナ禍以前から「Moodle」を導入していたことが大きかったのではないかと思います。
■では、先生の研究室での取り組みについてお聞かせください。
私自身は分析化学を専門としています。それを活かす形で、本学科ではIoTを用いたPOCT(Point Of Care Testing:臨床現場即時検査)のプロトタイプを学生と一緒につくり、その問題点や可能性について検討しています。具体的には、手のひらサイズの小さなAIカメラに、がん細胞や赤血球などの画像を機械学習させて、人間が病気を判定するのと同じように病気を画像判定できるようにしようと取り組んでいるのです。
現在、臨床検査の現場では、臨床検査技師が顕微鏡をのぞいて、がん細胞やアポトーシス(細胞死)を起こした細胞、何か病気にかかった組織、赤血球・白血球の形の異常といったことを、目で見て判定することが多々あります。それをAIカメラなどの機器で手助けできないかと考えているのです。もちろん、最終的には人間の目で判定する必要はありますが、病気になる前にその兆候を見つけ出し、早期発見・早期治療ができることは、人々の健康を維持するうえで、今後、ますます重要になってきます。
また、今回のコロナ禍で多くの医療人が懸命に働いてくれていますが、その数に限りがあることも、私たちは目の当たりにしています。そこでこれからは、彼らの仕事のうち、本当に人間が対応しなければならない部分以外で、機械に置き換えられるところを置き換え、必要に応じて人間の目で見るという方法が、必要になるだろうと考えられるのです。臨床検査の現場では少しずつ機械化が進んでいて、すでに血液検査は機械で自動化できていますが、さらにその先を見据えて、今お話ししたような機械で細胞などの画像から病気を判定することが発展していくのではないかと予想しています。
では、こうした機械化をどのように実現するのかというと、当然、プログラミングやデバイスなどのICTの知識が必要になります。だからといって、臨床検査技師の方たちにプログラムを書いてもらうことは、相当ハードルが高いですよね。ところがここ数年で、カメラなどのデバイスにプログラムを書き込むことが、ものすごく簡単にできる環境が整ってきています。例えば、今、小学生が必修で学ぶようになったプログラミングに、「Scratch」というものがあります。これはMIT(マサチューセッツ工科大学)のグループが開発したもので、ブロックを積み重ねる方法でプログラミングができるのです。これと全く同じ方法で、AIカメラにプログラミングができるようになっています。つまり、プログラミングのハードルが非常に低くなっているのです。また、AIカメラなどのデバイスの値段は、極めて安価です。さらに、本学の学生は全員がパソコン必携ですから、あとはケーブルでつないで、必要なプログラミングをすれば良いだけということになります。しかも、必要となるプログラミングは、インターネット上にたくさん公開されているので、コピー&ペーストでプログラミングができるのです。
このように大学生が、非常に手軽に利用できるIoTやICTのリソースがインターネット上にたくさんあり、臨床検査学の中の課題を機械学習などで乗り越えられるかもしれない時代になってきている以上、これをテーマにどこまで進めるか、本学科の学生と一緒に取り組みながら学んでいきたいと思っています。もちろん私たちだけでは進んでいけない部分も多々あるので、八王子キャンパスにあるコンピュータサイエンス学部の先生方からアドバイスを頂いて、助けてもらっています。そういう分野を超えた横のつながりは、本学ならではだと思います。
■学生は、どのような形でこの研究に関わるのですか?
AIカメラに学習させるがん細胞や赤血球の画像サンプルについては、臨床検査学科の先生が研究の一環で撮影したものをお借りしています。また、学生には実際に採血をしてもらい、顕微鏡で写真を撮って染色するといった、いわゆる従来の臨床検査学的な方法を手がけてもらっています。さらにこの4月からは、撮影した画像サンプルをAIカメラにいかに効率よく学習させるかを、学生と一緒に考えていくつもりです。検体の画像を撮影するとき、最も機械の学習効果が高い写真の撮り方は何かと考えると、がん化した細胞は形に特徴があるので、写真を撮影する際、どういうコントラストで撮るべきだろうか、どの程度の密度だったら許されるか、効率を上げられるかということを考えてもらうのです。そうすると単に写真を撮るだけでなく、当然、臨床検査の知識が必要になってきます。
逆に言えば、この研究でこれまであまり意識していなかった臨床検査の現場での細胞の見方を機械にうまく学習させるには、どういう画像サンプルをつくると良いかというところまで、踏み込んでいけるのではないかと思っています。それが新しい臨床検査の向かう方向につながっていけばうれしいですし、東京工科大学の持つテクノロジーの部分も活かせるのではないかと考えています。
また、こうした研究を通して、学生にはICTスキルを身に付けてほしいですね。もっと言えば、将来的に本学科の学生は医療のプロとなるわけですが、臨床検査技師として国に定められた手法を正確にできるだけでなく、そこに自分なりの工夫を加えることで、これまでできていなかったことができるようにならないかと、考えられる人材になってほしいです。
■先生が専門とされる分析化学とこの研究は、どのように関係するのですか? また、先生が分析化学を研究するに至った経緯をお聞かせください。
基本的に臨床検査とは、分析化学の分析対象が血液や尿といったヒト由来のサンプルに特化したものであると言えます。ですから大きく捉えれば、臨床検査の範囲は分析化学という広い範囲の一部に重なるところがあるのです。そこに今や誰でも使うことができるICTをうまく使って、学生も教員も一緒に考えられる研究テーマを展開していこうと取り組んでいます。それが東京工科大学らしい臨床検査学科ではないかと思うからです。
また、私自身の話をすると、もともとは天文学者になることを夢見ていました。ただ、私の所属していた大学では、私の成績で天文学を学ぶ学部学科に入ることが難しいと知って。そこで何かを測定したり分析したりする分野で、興味が持てそうなところはないかと探したときに、分析化学の研究室と出合ったのです。当初は半導体の表面分析を研究していましたが、やがて分析化学の手法で生物を対象に測定したら面白そうだと思い、発光バクテリアに興味を持つようになりました。私は現在、医療保健学部臨床検査学科の教員ですが、八王子キャンパスの応用生物学部の教員でもあります。もともとは応用生物学部でずっと、この発光バクテリアの研究をしてきました。一方、生物を相手に分析するものとして、医療分野には臨床検査という大きな柱があります。そこには分析化学で学んだデータの扱いや再現性の確認、あるいは偽陽性を防ぐ方法といった知識やスキルが役立てられるのです。そういう点から、現在は臨床検査学科でも教えています。
■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。
今、インターネットやコンピュータなどICTの力は、目を見張るものがあります。新型コロナウイルス感染症の流行により、奇しくもICTが人と人をつなげる、ものすごいポテンシャルを持ったものであることが明らかになってきました。また、人と人をつなぐだけでなく、コンピュータを使うことで知識や過去の人が残したものにアプローチし、活用できるようになりました。
そういうICTの世界と大学における生物や臨床検査化学に関する学びは、実はものすごく近いところにあります。それらを少し組み合わせるだけで、非常に面白いことができるのです。ですから自分が学ぶ学問分野の中には、いくらでもコンピュータを活用できる部分があり、コンピュータの分野にもそれらの知識をいくらでも使える部分があると知ってほしいですね。また、東京工科大学は、そういうことを学ぶ環境が非常に整っていて、みなさんの興味や好奇心を満たすことができる大学です。ぜひ本学で、分野を超えて何か面白いことを考え、挑戦してみてください。
■医療保健学部臨床検査学科WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/medical/mt/index.html