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学生の教育や医療現場に役立つデジタル教材「医療XRシステム」の開発に3学科連携で挑戦しています!

2021年6月11日掲出

医療保健学部 臨床工学科 田仲浩平 教授

臨床工学科 田仲浩平 教授

東京工科大学では、革新的かつ実践的な教育活動の一環として、2017年より4ヵ年をかけて、各学部・学環における「戦略的教育プログラム」を実施してきました。2021年度からは、その第二期目がスタート。今回は、医療保健学部臨床工学科が中心となって進めるプログラムについて、田仲先生にお話しいただきました。

■先生が中心となって取り組んでおられる戦略的教育プログラムについてお聞かせください。

 「医療XRによる演習・実習教育プログラム 3学科連携共同プロジェクト」ということで、医療保健学部の演習・実習に活用できるデジタル教材として「医療XR(AR&VR)システム」の開発に取り組んでいます。また、今回は、臨床工学科、看護学科、リハビリテーション学科作業療法学専攻の3学科が連携して取り組むプロジェクトになっています。
 まずは、私の所属する臨床工学科としての取り組みから話しましょう。もともと戦略的教育プログラムは、2017年~2020年の4年間を第一期として、全学的に取り組まれてきたものです。第一期では、私は「医療VR技術を応用した臨床工学技士教育プログラム」というテーマで、3D-VR(ヴァーチャルリアリティ)システムを活用し、心臓の手術時に使用する人工心肺装置の操作トレーニングができるシミュレーターの開発に取り組みました。第二期となる今回は、前回開発したVRシステムのさらなる充実化を図ろうと進めています。具体的には、第一期で開発したVRシステムをオンライン化して並列で動かせるようにし、いつでもどこでも誰でも利用できるようにしたいと考えています。というのも昨年度、新型コロナウイルス感染症の流行により遠隔授業が中心になったことで、オンライン化という課題が大きくなったからです。これまでのVRシステムは、その装置がある場所へ行き、一人ずつ操作しなければなりませんでした。しかし、それでは装置のある場所に行く必要がありますし、1台につき1人しか操作できません。ですからオンライン化することで、場所を選ばず、複数人でも使えるようにしたいのです。

医療VRシステムを用いた人工心肺シミュレーション実習の様子

 また、このVRシステムでトレーニングした人を定量評価、つまり客観的に評価できるようにしたいと考えています。実はこれは第一期で到達したかったことなのですが、最終年だった昨年度は、コロナ禍で思うように進めることができなかったため、第二期で形にしたいと思っています。単に被験者がVRを見るだけでなく、きちんとそれにリアクションすることで、どのくらい自分がうまくできたのか、あるいはどの基準までいけば上達できるのかを数字で示せたほうが分かりやすいですよね。しかも上手な人のラインをトレースして、そこを目指していくという目標値がある方が、学生も積極的に挑戦できると思います。そういう要素を入れてVRシステムを完成させたいと考えています。
 ちなみに、この定量評価の部分では、チャットボットを活用できないかと考えています。チャットボットとは、最近、ウェブサイトで質問を入力すると、それに答えてくれるものがありますよね。それをVRの中に組み入れようと考えているのです。例えば、VRの中で患者さんの血圧が下がったとき、チャットボットが出てきて、「血圧が下がっていますが、どうしますか?」と聞いてきたり、チャットボットの医師が「血液が漏れているが、次はどうするんだ?」と質問してきたり、「血圧を上げなさい」と指示し、学生がそれに対応しないと「もう一度やり直しなさい」と前の手順に戻すといったイメージです。これにより学生に対して客観性のある評価ができるうえ、難易度の設定もこれを基準にできるだろうと考えています。

 一方でAR(拡張現実)の研究にも取り組んでいます。ARの研究は以前から手掛けていて、例えば、スマートグラスをかけると人工呼吸器の点検手順等が表示され、それに従って機器の点検の練習ができるといったものを開発してきました。当初はスイッチを押して、次の手順へと切り替える形でしたが、今では音声で切り替えができる完全ハンズフリーになっています。「OK」と言えば、次の手順が表示され、「できませんでした」と言えば、その音声に反応してひとつ前の段階に戻るといった形です。このARを使って、色々な医療機器操作や医療手技などの各種コンテンツを開発し、実際に役立つデジタル教材を開発しようと考えています。
 例えば、現在、制作を進めているコンテンツのひとつに、吸引操作のコンテンツがあります。患者さんの痰を吸引する吸引操作は医療従事者にとって重要な手技になるため、そういう基本的な医療技術を扱いたいのです。
 また、輸液ポンプの操作コンテンツも考えています。輸液ポンプは点滴を精密に落とす機器で、速度をきちんと管理しないと、患者さんの体調に影響するものです。輸液ポンプは、看護師や臨床工学技士など多くの医療従事者が関わる医療機器ですから、その操作を扱ったARコンテンツができれば、多くの人に役立つのではないかと思います。

■では、看護学科、リハビリテーション学科作業療法学専攻は、どのような形で研究に関わるのですか?

  実は先ほど話した私たち臨床工学科の取り組みと重複しているのですが、看護学科でもARを使った吸引コンテンツの開発を考えています。看護学科では、それを実際に教材として使いたいと考えていて、最終的に実装してデータを取ることを目標にしています。それがうまくできれば、もっと看護技術のバリエーションを増やしていこうと考えているそうです。臨床工学科にしても看護学科にしても、なぜ痰の吸引操作に関するARコンテンツの開発に取り組むのかと言えば、今後、在宅医療が発展し、患者さんが病院から自宅へ戻る流れになると考えられていて、吸引操作は医療従事者全員ができなければならないうえ、介護士や介護を担うご家族にも求められることになるからです。例えば、患者さんの喉に痰が詰まったとき、吸引してくれる看護師が到着するまで待って、患者さんが亡くなってしまったら大変ですよね。とはいえこの痰の吸引は、なかなか難しいものです。鼻腔吸引、口腔吸引、気管吸引と種類がありますし、吸引操作の時間がかかり過ぎると患者さんが低酸素になる恐れもあります。看護学科では、この吸引を基本中の基本テクニックとして、必ず抑えておきたいということで、今回、ARコンテンツを制作することになりました。
 また、リハビリテーション学科作業療法専攻に関しては、自助具や福祉機器の取り扱い操作用のARコンテンツを開発しようと考えているそうです。とはいえ、作業療法士がARでトレーニングするのではなく、患者さんにスマートグラスをかけてもらい、そこに次にするべき作業や手順を表示することで、それに従って自分で作業ができるようにしたいと考えているそうです。


■今回の研究プロジェクトに、学生はどのように関わるのでしょうか?

 第一期のときも、学生は被験者としてだけでなく、ダイヤルの位置や重さについて提案してもらうなど、VRのコンテンツの開発や改善に関わってもらっていました。第二期となる今回は、企画から入ってもらい、コンテンツ制作にも密接に関わってもらっています。学生の中にはプログラミングが得意な人もいて、簡単なプログラムを打ってもらったり、看護学科やリハビリテーション学科作業療法学専攻の先生方のコンテンツ開発にも関わってもらったりしています。今はまだ臨床工学科の学生のみが参加していますが、今後は看護学科や作業療法学専攻の学生もプロジェクトに参加してもらう予定ですから、一層盛り上がると思います。

■戦略的教育プログラムは4ヵ年計画のプロジェクトですが、今年度の目標を教えてください。

 始まったばかりですので大きなことは言えませんが、今年度の目標としては、とにかく教員と学生が協同してARコンテンツをひとつ、つくることができればと思っています。それがきちんと動作して、演習・実習に使えるまで持っていけたら、実際に授業で使ってもらい、評価検証したいですね。また、これまでの研究の成果として、学生には学会発表をさせる予定です。今後、このプロジェクトに参加する看護学科やリハビリテーション学科作業療法学専攻の学生も、何らか学会で発表することがあると思うので、年間1~2人は、研究発表をしていきたいです。

■最後に、受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 新型コロナウイルス感染症の流行後、ポストコロナの時代は、今までの概念や考え方、発想が大きく変わってくると思います。それを見据えて、医療保健学部でも今日お話ししたように、今までは対面でなければできなかった実習や演習にも、きちんと教育効果が上がり、学生がいつでもどこでも意欲的に取り組める次世代のデジタル教材が必要になると考えています。
 理工系総合大学である東京工科大学は、ひとつの大学に色々な理系の領域が幅広く集まっているという強みがあるので、そのリソースを活用することで、次世代のデジタルコンテンツが開発できると考えています。もちろん、私たち医療分野の人間はシステム開発の専門家ではないので、その道のプロの力も借りながら、医療に関わる多くの人の役に立つ、そして目の前の患者さんや学生に対して効果の出るものをつくることを目指しています。本学部では、実際にそれらを適用する事例を直接、見たり体験したりすることができますよ。今からの医療現場は、ますます工学的な強みを持つ人材が求められています。東京工科大学の医療保健学部はじめ特に臨床工学科ではその様な学生を育成していきたいと考えています。