デザインに正解・不正解はありません。それよりも伝わったかどうかという視点を大切に!
デザイン学部 御幸朋寿 助教
平面のモノが立体になるときの面白さに注目し、折り紙建築(ポップアップカード)の仕組みについて研究してきた御幸先生。今回はデザイン学部の新カリキュラムの話とともに、研究の詳細を伺いました。
■デザイン学部の新カリキュラムについて教えてください。
この春の新3年生から新しいカリキュラムでのコース制が始まっています。これまでは立体的なデザインを学ぶには「空間と演出」というコースしかなく、その中に空間デザインと工業デザインが含まれる形になっていました。これには広い視点で立体的なデザインを学べるという利点がある一方、学生によっては卒業研究や先の進路を考えたときに、範囲が広い分、進むべき方向や専門性を決めるのに悩んでしまうという問題もあったんです。
そこで新カリキュラムでは、3年生に進級するときに視覚デザインコースと工業デザインコースのどちらかを選択することになりました。また、視覚デザインコースには視覚デザイン専攻と映像デザイン専攻が、工業デザインコースには空間専攻と工業デザイン専攻があって、学生は選んだコース内の2つの専攻を両方学んでから、どちらを専攻するかを決める形になります。進むべき方向が細分化されたことによって、自分の学びたい分野や専門が明確になり、進路を見つけやすくなったというわけです。
■では、先生のご研究についてお聞かせください。
開くと立体的なものが飛び出す“ポップアップカード”ってありますよね。あのように一枚の紙に切れ込みと折り目をつけて折りたたむことで、開くと立体的な形が飛び出す“折り紙建築”と呼ばれる折り紙の手法について、その仕組みや構造を検証しながら工学的・デザイン的な応用につなげる研究しています。
折り紙というと遊びや趣味みたいに聞こえるかもしれませんが、世の中には折り紙工学といって、折り紙の仕組みを工学的に利用する分野があります。有名なところでは、宇宙実験衛星のソーラーパネルの展開に利用されている“ミウラ折り”。これは紙の対角線部分を持って開くと、全体が簡単に展開できる仕組みの折り方です。他にも動脈を広げる治療に使われるステントなど、さまざまな分野で折り紙の仕組みが応用されています。ところが、同じ折り紙の手法である折り紙建築に関しては、単なる手芸という位置づけで、ほとんど研究されてきませんでした。そこでこの折り紙建築をどう発展させられるかという視点で、切ったり貼ったり、一般的な構造体に見られる仕組みを当てはめたりして、検証していったのです。そのうち、いくつかは可能性を感じさせる動きをする展開が発見できたので、実際に作品として制作もしました。“御幸折り”と名付けた折り方のものは、店舗の内装デザインに採用されたものもあります。
■デザイン学部の共同研究にも参加されているそうですね。
一昨年から3Dプリンターを活用した共同研究プロジェクトに参加しています。いろいろなテーマで研究が進んでいますが、私が関わっているのは、3Dプリンターやその他のデジタル加工機を含む最新技術とその環境を新しいモノづくりにつなげていく研究になります。
3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル加工機は、単なる製造装置ではなく、既存のデザインをがらりと変えるほどの可能性を持っているものです。ですが実際には、なかなかそのような使い方にはなっていません。例えば、「FabLab(ファブラボ)」といったデジタル加工機を設置した貸し工房があるのをご存知ですか? そこでは3Dプリンターやレーザーカッターなどを使ってモノづくりができるということで、デジタル加工機もそれなりに一般に浸透してきてはいます。しかし、そこではデータまではつくれないため、簡単な造形物しか出力できないなど、まだまだサービス面での課題があります。
例えば、コップの3Dモデルがあるとして、そのデータを買ってきて出力するだけではコップのデザインに変化はありません。ですが、そこにパラメーターを設定して、持ち手の太さや飲み口の厚さを自由に変えられるといった、ベースとなるモデルに変化を加えられるサービスを付けたら、一般の人でもデザインにどんどん参加できますよね。そんなふうに一般の方が自由にモノづくりに関われるようになって初めて、デジタル加工機の技術が一般に浸透し、デザインの在り方を変えていくのではないかと思っています。私自身、大学院時代に3Dプリンターを使っていましたし、ある数字を変えると形が変わるというパラメトリックデザインも学んできたので、その経験や知識を活かして、この研究に貢献していきたいですね。
■最後に今後の展望と学生へのメッセージをお願いします。
本学では今、各学部で人工知能(AI)研究が進められていて、私も先ほど話した折り紙建築の研究にAIを活用する研究したいと考えています。折り紙建築を展開したときにできる形は、今のところ偶発的だったり私の経験や勘頼りだったりするため、必ずしも思い描いた形をつくれているわけではないんです。そこでそういう計算部分をAIが補助してくれる設計支援システムを開発したいと思っています。
また、AI研究は学部横断的な面もあって、この折り紙のAI研究には他学部の先生も参加してもらう予定です。別の領域の視点が加わることで、私の発想にないアイデアが出てくるなど、より可能性が広がるのではないかと期待しています。
学生には、モノづくりやデザインに正解・不正解はないということを自覚して、さまざまな課題に取り組んでほしいと思っています。高校まではたいてい正解・不正解があって、それによって評価されてきたと思いますが、デザインにおいては合っている・合っていないはなく、人に伝わったか伝わらなかったかしかありません。そして、どうして伝わらないのか、どうして伝わったのかをきちんと考えていくことが、良いデザインにつながるのだと思います。また、学生にはデジタルデザインや一歩先の技術にも興味を持ってチャレンジしていってほしいですね。コンピュータをうまく使うと、手だけでは考えられない面白い形やデザインをつくれるようになりますし、最近は学生でも割と簡単に最新技術を利用できるようになってきています。そういうものを使って、「こんなことしたい!」という思いを大学でどんどん形にしていってもらえたらうれしいです。
・次回は6月9日に配信予定です。