片柳研究所 東京工科大学

研究者インタビュー

訓練し放題!?VRで医療技術を習得

訓練し放題!?VRで医療技術を習得 1 | 臨床工学技士として命の現場に向き合い、 / 繊細な医療機器の操作に張り詰めた日々を送っていました
訓練し放題!?VRで医療技術を習得 2 | 学生のうちから、実際に医療機器を使って / 医療安全教育に特化した実習が大切と痛感。そして、研究・教育の道へ!
訓練し放題!?VRで医療技術を習得 3 | しかし、高価な人工心肺装置を全学生が扱うのは難しい… / そこで!VRを使ったシミュレーターを作り実習に取り入れました。
訓練し放題!?VRで医療技術を習得 4 | 現実に起こり得るトラブルも仮想空間で / 体験できるのはここならでは!

研究とは「ロマンの追求」医療保健学部 臨床工学科 笠井 亮佑 講師

  略歴
  ●兵庫県立大学大学院応用情報科学研究科博士後期課程修了
  ●横浜市立大学附属市民総合医療センター
  ●徳島県立中央病院

医療安全への意識が高まり、研究の道へ。

親が医療関係の仕事をしていたこともあり、中学生の頃には医療系の分野に進もうと考えていました。高校は医療系に特化した学校に進学し、医療系と工学の両方を兼ね備えた職業について考えた際、「臨床工学技士」という職業に辿り着きました。悩むことなく臨床工学技士になることを決意し、そのために大学へ進学しました。

臨床工学技士の国家資格を取得し、大学卒業後は三次救急指定の病院で臨床工学技士として勤務。主に、人工心肺装置や人工呼吸器、ECMOなどの生命維持管理装置を扱っていました。
※三次救急とは、一次や二次では対応が難しい生命に関わる重症、重篤患者を365日24時間体制で受け入れている病院のことです。

その中でも私は、心臓血管外科手術中に使用される人工心肺装置の操作を専門としていました。人工心肺装置は非常に繊細な機械であり、ほんのわずかなミスでも患者さんに多大な影響を及ぼします。もしその小さなミスに気付けなかった場合、患者さんの命を危険にさらしてしまうおそれが高くなります。
国内では毎年、インシデントやアクシデント、ヒヤリハットといった事例が多数報告されています。それほどリスクの高い医療機器を扱う中で、次第に「いつか医療事故が起きてしまうのではないか」という不安が募っていきました。そこで、医療の安全性を高める方法を探るため、研究の道へ進むことを決意しました。

VRを用いて医療に応用。

研究の道に進んでからは、主にバーチャル技術を活用しています。そのうちの一つが「VRを使った教育」です。
※VR(バーチャルリアリティ)とは、360度の映像を用いて仮想空間に入り込む技術のことです。

「VRを使った教育」では、ヘッドマウントディスプレイを装着することで、心臓血管外科手術室内に没入することができます。
ユーザーはVR空間で人工心肺装置の前に座り、専用のコントローラーを使ってトレーニングを行います。
人工心肺装置は非常に高価であるため、学生全員分を用意することは現実的ではありません。しかし、VRを活用することで、デバイスとパソコンさえあれば自宅でも練習が可能になります。さらに、VRでは操作に応じて血圧の変化やトラブルをシミュレーションすることができるため、何度でも失敗を経験することができます。この「失敗できる環境」は、学びにおいて非常に有益です。

患者さんや医療従事者が医療事故に遭わないためには、しっかりとしたトレーニングを積むことが不可欠です。
この研究を通じて、教育の質を高め、医療の安全性を向上させることの重要性を改めて実感しています。

トレンドの波にいかに乗っていくか。

研究とは、これまでに解明・発見されていない未踏の理想やイメージを追求することであり、特に私のメインテーマである医療機器に対してロマンを感じています。「医療の発展=医療機器の進歩」は過言ではなく、これまで想像もしたことがない技術やアイデアが世界中の人たちの健康や命を支えることを考えると、夢を実現するためのやりがいを強く感じます。

また、実はプライベートでは、冬でも息子と一緒に朝からサーフィンを楽しむほどサーフィンが好きです。サーフィンは失敗だらけのスポーツですが、研究と似ていると感じています。
トレンドは常に変化するものです。医療や研究の現場でも同様で、場所や状況によって求められること・必要な技術が変わります。そういった変化に対応するため、予測を立て、問題を解決し、時には失敗を繰り返しながら前進していきます。
サーフィンも同じく、波を予測し、問題を解決し、実行して失敗を重ねながら上達していくスポーツです。

現在は、最先端の研究に取り組む中で、学生たちにも協力してもらいながら試行錯誤を重ね、一緒に研究を進化させています。
今後は、この研究を医療現場での新人教育の教材として活用することで、医療安全の向上にさらに貢献していきたいと考えています。