検体は患者さんそのもの! どんな小さな変化にも気づける臨床検査技師を目指そう
医療保健学部 臨床検査学科 栗原由利子 准教授
小学生の頃、保健委員を任されたことから医療分野に興味を持ち始めたという栗原先生。臨床検査の分野では、尿や血液などを対象に研究されてきました。今回は、先生が本学で担当している授業の話やこれまでのご研究について伺いました。
■先生は、授業でどのようなことを教えていますか?
私の専門は、臨床検査の中でも尿の成分分析になります。授業でもそれに関連することを教えていて、例えば1年生・後期にある「一般検査学」という授業では、みなさんが病院に行った時に最もよく受ける尿検査など、一般的な検査の原理を解説しています。尿検査の場合、調べているのは尿中にタンパク質が出ていないか、潜血がないかといったことですが、それぞれの調べたい項目ごとに試験紙が用意されています。他にもpHや、感染症などを患っていないかを確認するために白血球を調べるもの、細菌がつくりだす亜硝酸塩に反応して検出するような試験紙があります。そして、それらの試験紙には、酵素反応が用いられていたり、pHを調べる試験紙には色素反応が利用されていたりと、それぞれ別の化学反応を使っています。つまり測定原理が違っているので、それぞれに注意しなければならないことがあるのです。例えば酵素反応を利用した検出の場合、ビタミンCをたくさん服用すると、酵素反応がうまくいきません。ですから患者さんには、尿検査の前にビタミンCを服用しないでくださいとアドバイスをしなければならないのです。このように授業では、検査の原理に加えて検査を阻害する物質や影響についても教えています。
また、2年生・前期には「一般検査学」の実習も行っています。実習では、2~3人1組のグループで学生たちの検体を使った尿検査をしたり、こちらでつくった疑似検体を使ったりして実習に取り組んでもらっています。すること自体は化学実験とそう変わりませんが、出てきた検査結果が患者さんの体の状態を知ることにつながるという点は、非常に重要です。臨床検査技師は、患者さんの目には触れないところで検体と向き合い、患者さんの病気を発見し、医師はそれを元に診断を下します。ですから「検体=患者さん」であるということを繰り返し伝えることで、検体を大切に、慎重に扱うように指導しています。
■先生ご自身は、これまでどういった研究をされてきたのですか?
これまでに取り組んできたものは、尿中のタンパク質を対象にした研究です。タンパク質と言ってもいろんな種類があって、分子量が違う、つまりそれぞれサイズが違っています。例えば、大きなタンパク質が尿中に出てくる場合は、腎臓のろ過機能が弱っていると言えるんです。そもそも腎臓には、茶漉しのようなフィルターがあって、血液中の不要なものをそれでろ過することで尿に出し、体外へ排泄しています。そのフィルターの網目が詰まったり、大きくなってしまうと、本来は尿中に出てこないはずの大きなタンパク質が出てきてしまうことがあります。だから尿中に大きなタンパク質が認められるということは、ろ過機能が悪くなっていることだと言えるのです。
また、フィルターでろ過された尿は、尿細管というもので再吸収されます。体に必要な成分なのに、フィルターの網目から漏れ出てしまった小さな分子のものを血液中に再吸収するわけです。その再吸収するところが悪くなっていると、今度は尿中に小さいタンパク質が出てきてしまいます。ですから尿中に認められるタンパク質の大きさによって、腎臓のフィルター部分が悪いのか、再吸収部分が悪くなっているのかを推定することができるのです。そういう研究をしていました。
尿中タンパク泳動像
■では、学生には本学でどんなことを身に付けてほしいと思いますか?
実習風景
学び続ける力を養って、巣立ってほしいと思っています。臨床検査技師が検査で扱う領域は非常に幅広いです。試験管を振る化学実験のような分野もあれば、微生物分野では菌の培養をして細菌を見たり、病理検査では人の組織や臓器の一部を採取してきて細胞の形を見て、癌の判定をしたり。生理系では、呼吸器の検査や脳波の測定など、本当に多岐にわたります。逆に言えば、それだけ学ばなければならないことが、たくさんあるんですね。また、検査ごとにすることも必要となる知識も違ってきます。それだけ分野ごとの専門性が強いんです。国家試験に合格するには、すべての勉強が必要ですが、実際に検査技師になってからは、専門分野に分かれます。緊急検査といって、病院に当直していて、急患に対して検査を行うことがあるため、ひと通りのことが出来なければいけませんが、それ以外は専門にわかれて、それぞれを極めていくことが多いです。そういう点から言えば、学生は何かしら興味の持てる分野が見つけられると思いますよ。
また、国家資格取得後も、血液の検査をする人、遺伝子の検査をする人、細胞の検査をする人、生理検査では循環器、腹部エコー、脳波など、それぞれの分野の学会ごとに認定資格があるので、そういうものの取得にも取り組んでいく場合が多いです。加えて、検査項目や検査技術自体もどんどん増えて、変化しています。ですから、大学で学んだら終わりということは絶対になく、生涯を通じて勉強しないといけない仕事なんです。その重要性を理解してもらいたいですね。
■最後に今後の展望をお聞かせください。
教育者としては、将来、学生が研究者になるにしても病院で臨床検査技師として働くにしても、とにかく小さな変化に気づける人になってほしいと思っています。臨床検査技師は、患者さんと接する機会が少ない仕事ですが、患者さんの検体を通して、その人の状態を見ているわけです。そこには、なかなか気づきにくい小さな変化がある場合もあります。例えば、検査では正常値というものがあって、大勢の集団で見たときの正常値と個人で見たときのそれとは違っています。ある方の検体の検査結果が、集団の中では正常値の範囲だけれど、その人の普段から考えると高めの値が出ている、あるいは低めの値が出ているということが起こり得ます。ですから、個人のデータの微妙な変化にきちんと気づくことができる技師になれるように、学生を育てたいと思っています。
■医療保健学部WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/medical/index.html
・次回は10月9日に配信予定です。