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乾燥に強い植物“ヤトロファ”の遺伝子を解明して、乾燥地の緑化や農業に貢献したい

応用生物学部 多田 雄一 教授

応用生物学部 多田 雄一 教授

遺伝子組換え技術を利用して、植物の持つ力を環境や生活に役立てる研究に取り組んでいる多田先生。これまでに、マングローブの耐塩性に関する研究やポトスの空気浄化能力に関する研究などを手がけています。今 回は、それらに加えて、新たに始まった研究について伺いました。
(過去の掲載はこちらから→
https://www.teu.ac.jp/interesting/011539.html

■前回の取材では、耐塩性植物であるマングローブの研究に特に注力されているとのことでしたが、その後の展開はいかがですか?

以前の取材では、ちょうどマングローブの耐塩性に関係する遺伝子がいくつか見つかったというお話しをしたかと思います。その後も、いくつかそう いった遺伝子は見つかったのですが、いかんせんあまり耐塩効果が強くないものばかりで。最終的にはマングローブの耐塩性遺伝子から海水に耐える 植物をつくることを目標にしていますが、なかなかそこまで辿り着けていないというのが正直なところです。今、見つかっている耐塩性に関する遺伝 子は、海水の3分の1程度の塩分濃度、150ミリモル程度の塩水に耐えられるくらいです。ただ、それらの強くない遺伝子たちを組み合わせたらどうな るかという研究には、まだ着手できていないので、今後、手がけていきたいと考えています。
また、マングローブの研究があまり進んでいないこともあって、ソナレシバという耐塩性植物も研究材料として使うようになりました。ソナレシバは 芝の仲間ですが、実はマングローブよりも塩に強い植物だと言えます。マングローブはいきなり塩水をかけると一度、しおれるのですが、ソナレシバ はまったくしおれず、海水よりもっと塩分濃度の高い塩水をかけても何ともありません。このソナレシバでもマングローブ同様、いくつか耐塩性に関 係する遺伝子を見つけられました。こちらの場合、180ミリモルの塩水に耐えられることがわかっています。まだまだ耐塩効果としては弱いのですが、 もっと塩に強い遺伝子があるのではないかと期待しています。

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■では、それ以外の研究で何か新しい取り組みは始まっていますか?

ちょうど前回の取材時に着手し始めたところだった、ヤトロファの研究が進んでいます。ヤトロファというのは、今、世界的に注目されている油糧植 物です。油糧植物というのは、種から油が採れる植物のことで、ナタネやパームヤシが有名ですね。そういう植物の中でもヤトロファは、肥料の少な い痩せた土地や乾燥した土地、植物にとってあまりよくない環境でも枯れないということで注目を集めています。というのも、今、アメリカを中心に トウモロコシを原料としたバイオエタノールの生産が行われていますが、その結果、食料であるトウモロコシの値段が高騰するという問題が起きてい るんです。ヤトロファは食べることができないので、食物と競合することなく、純粋にエネルギーとしてバイオディーゼルという燃料を抽出すること ができます。また、トウモロコシが育たないような土地でも育てることができるということで、世界で研究が進められているのです。
私の研究室では、そうしたヤトロファの油糧というよりは、乾燥に強いという部分に注目して研究をしています。当研究室で行った実験では、2年間、 水を与えなくても枯れませんでした。ですからヤトロファは、それだけ乾燥に強い仕組みを持っていると言えます。その仕組みを支えている遺伝子を 見つけようと、取り組んでいるところです。現段階では、乾燥条件に移すと、より活性化する遺伝子をいくつか見つけました。今は、その遺伝子をシ ロイヌナズナという実験によく用いられる植物に組換えて、実際に乾燥に強くなるかどうかを調べているところです。

実験風景

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■乾燥に強い植物は、どういうことに利用できると考えられますか?

例えば、乾燥地の緑化やあまり雨の降らない地域での農業を可能にするかもしれません。農業ができるようになると、食料の増産に貢献できます。ヤ トロファの場合、乾燥地では生育は落ちますが、ちゃんと育って実をつけることができます。その仕組みは、まだわかっていませんが、痩せた土地で も育つ植物なので期待ができます。また、おそらく乾燥地では、これまでにそれほど植物が育ってきていないので、土地自体に栄養はあると予想でき ます。 ですから、他の植物でも乾燥に強くなれば、それなりに収量が得られるのではないかと考えています。ヤトロファの研究は、油に関することならば世 界でも結構、取り組まれていますが、乾燥に関しては、私が知る限りほとんど行われていません。そういう意味でも、オリジナリティのある研究だと 思い、力を入れています。

■最近では、シシトウのご研究も始められたそうですが。

去年の夏くらいから、シシトウがなぜ辛くなるのかという研究を始めました。一般によく言われているのは、乾燥したり温度が高くなったりとシシト ウに環境ストレスがかかることで、辛いものができやすくなるということです。それについては検証してみましたが、どうやら事実のようです。水を 切って乾燥させると、辛いシシトウができやすくなりました。 ただ、その場合でも全ての実が辛くなるわけではないので、それ以外にも要因はあるはずです。そういうことも含めて、辛くなる原因を探りたいなと 思っています。
シシトウはトウガラシの仲間ですが、トウガラシが辛いのは、カプサイシンという成分ができるからだとわかっています。また、それができる仕組み や関係する遺伝子もかなりわかってきている状況です。そこでカプサイシンをつくる遺伝子がシシトウの中にあるのか、またどうなっているのかにつ いて調べてみました。結果、辛くないシシトウでは、その遺伝子は存在してはいますが、活性化していないのに対し、辛いシシトウでは、それが活性 化して動き出すことがわかりました。今は、その遺伝子が活性化する仕組みを見つけようと取り組んでいます。具体的には、シシトウに乾燥などのス トレスを与えた時、その辛くなる遺伝子がどうなるのかを調べます。また、ストレスを与えた時に、植物中には過酸化水素や一酸化窒素といった成分 が増加します。ですからそれらの物質そのものをシシトウに与えた時、果たして辛くなるのかということも調べるつもりです。

■この研究の最終目標とは?

個人的には、辛いシシトウが好きなので、ピリ辛のシシトウがつくれたら非常にうれしいです(笑)。辛いものからまったく辛くないものまで、シシ トウの辛さを自由に調節できるようにしたいと思っています。また、研究がうまくいけば、それをトウガラシに応用できるかもしれません。ハバネロ やハラペーニョ、日本の鷹の爪など、トウガラシの辛さにも色々ありますが、その中でももっと辛いものや適度な辛さのものなど、調節できる技術を 新たに開発できる可能性があります。また、トウガラシに限らず、ピーマンやパプリカにも同様の技術が応用できるかもしれません。そんなふうに食 品に活かしていければと思っています。

■最後に今後の展望をお聞かせください。

これまでの話と重複しますが、耐塩性植物の研究に関しては、マングローブかソナレシバ、あるいはその両方からもっと強い耐塩性を与えられる遺伝 子を見つけたいというのが大前提です。今は、弱いながらも複数の耐塩性遺伝子が見つかっている状況ですが、それらが複合的に作用しているという 可能性だけでなく、それらをコントロールしている遺伝子があるかもしれないという可能性も残されているので、そのあたりも探してみたいと思って います。ヤトロファの研究や、シシトウが辛くなる仕組みの解明と並行して、続けていきます。
 

■応用生物学部 植物工学(多田雄一・来須孝光)研究室
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/bio/dep.html?id=14

・次回は6月8日に配信予定です。

2012年5月11日掲出