人間が普通にしている動作を、ロボットでもできるようにしたい!
コンピュータサイエンス学部 関口 暁宣 講師
人間らしい動作や効率的な動作ができるロボットを開発するための研究をしている関口先生。今回は、人間の動きや構造をロボットに活かそうと取り組んでいる研究や、ロボット研究の面白さについてお話しいただきました。
■先生の研究室では、どのような研究に取り組んでいるのですか?
ロボットに人間らしい動きや、人間が普段行っているような柔軟で適応性の高い動きをさせるには、どうすれば良いかということを研究しています。その中でも最近、力を入れているものに、人間の動きを測定して、そこから何か情報を読み取ったり、ロボットや機械の制御に役立てたりしようと取り組んでいる研究があります。例えば、医師と共同で研究している、睡眠時の寝返りについての研究。これは枕の高さを、その人の体に合うようにうまく調節することで、寝返りがしやすくなり、結果的に良い睡眠がとれるようになったり、肩こりなどの症状が改善したりすると提案をされている、“枕外来”の医師との共同研究になります。現状、専門的な知識と経験を持っている医師が、患者ひとりひとりを診察し、寝返りをうってもらい、枕の高さを微調整しているのですが、非常に人気で予約待ちの状況です。そこで、より多くの方の睡眠を改善できるように、枕の微調整を自動化できないかということで、一緒に研究しているのです。
研究室で取り組んでいるのは、被験者に寝返りをうってもらい、その体の動きを加速度センサ、ジャイロセンサ、地磁気センサから成るモーションセンサで測定し、それが良い寝返りなのか悪い寝返りかを判断できるようにすることです。今は、センサで計測している様子をビデオ撮影して、医師にその寝返りがどういう特徴を持っているのかコメントをもらい、実際にそれがセンサで測定したデータにどう表れているかを解析しているところです。当面の目標として、この研究で得られた知見を専門的な知識を持つ医師の育成に活かすことができればと思っています。
■では、ロボットの研究については、どうでしょうか?
以前から取り組んできたものでは、2足歩行ロボットを人と同じように膝を伸ばした状態で歩かせようという研究があります。ロボットの膝を伸ばした状態で歩かせるというのは、制御の問題や、歩く際の衝撃が大きくなるという問題があり、実はとても難しいことなのです。ただ、それをなんとか実現したいと思い、制御面やロボットの足の構造について研究しています。ロボットの足部構造についての研究としては、2足歩行ロボットの足部分に、人間のそれと同じような構造を導入することで、人間らしく歩かせようという研究があります。ロボットの足の裏は、平らで板一枚みたいな構造になっているものが多いですが、それが人間らしい動きを実現しにくくしている一因だとも考えられるんですね。そこで、人間の足にある3つのアーチ構造をロボットに取り入れることで、より柔軟で自然な歩行や人間のような効率的な歩行、あるいは複雑な環境への適応を実現できないかと思っています。今は、まだシミュレーション段階で、アーチ構造を取り入れることで、どういう効果があるかを調べているところです。
また、4年生の卒業研究では、ゲームデバイスの「Kinect」を使って人の動きなどを計測し、その情報を離れたところにいる人とのコミュニケーションに利用できないかとい
うことを考えている学生がいます。「Kinect」を活用することで、感情表現などを豊かに伝えられるような、単純なビデオチャットよりも楽しいコミュニケーションツールを実現したいと考えているようです。また、「Kinect」を掃除ロボットに利用しようとしている学生もいます。「Kinect」で部屋の環境などを計測して、より効率的に掃除をさせようという研究です。このように「Kinect」などのセンサを用いて、人の運動や状態、環境の状態などを測った情報を、人のそばで暮らしを助ける機械やロボットに活用しようという研究に取り組もうとしています。
■先生がロボット研究に興味を持ったきっかけとは何ですか? また、研究の面白さとは?
「アトムやガンダムに憧れて」と言いたいところですが、実ははっきりしたきっかけは、ないんです(笑)。アトムもガンダムも、子供の頃にテレビアニメで観ていましたが、その時はロボットを作りたいとは思っていませんでした。ロボットを作りたいと思い始めたのは、大学に入ってからですね。大学に入る前は、数学などの理学系の勉強をして、教員になりたいと考えていたんですが、学科を選ぶ際に機械系の学科紹介を聞いて、ロボットや機械を制御して、思った通りに動かすというのは面白そうだなと思ったんです。
また、私自身は、ヒューマノイドロボット(人間型ロボット)にそれほど興味を持っていたわけではなかったのですが、ちょうど大学院生の頃に、HONDAの「P2」という2足歩行のヒューマノイドロボットが学会で発表されて、あまりの完成度に衝撃を受けたことを覚えています。それまで2足歩行ロボットは実用的ではないと考える研究者も多かったのですが、「P2」の登場でヒューマノイドロボットの可能性を目の当たりにし、刺激を受けたのだと思います。
研究の面白さという点では、例えばセンサを使って得たデータから、「この時とこの時とでは、この部分にこんな形で違いがあらわれている」と発見できると面白いですね。それに人の動きから、その動きや見た目ではわからない、その人の状態、例えば感情や疲れ度合いなどが測れたら面白いなと。今はいろいろなセンサが発達して、取り巻く環境が良くなってきている分、これからもっとユニークで面白い研究ができるのではないかと期待しています。
それからロボット研究の方では、やはり試行錯誤しながらも、自分の思うようにロボットを動かせると、単純にうれしいです。そういうところが魅力だと思いますね。
■では、最後に今後の展望をお聞かせください。
将来的には、人間の運動の特性やロボット自体の体の構造を活かして、うまく動けるロボットをつくることができればと思っています。“人間らしさ”という部分もあるかもしれませんが、それだけでなく、そのロボットの構造だからこそできるという部分についての研究も、いずれは取り組んでいきたいですね。つまり、そのロボット自体が自分の特性を活かして動けるようにしたい、ということです。そういうロボットを開発して、効率的な動きを実現したいと思っています。
私としては、人間に近いロボットというより、人間が普通にしている動作をロボットでもできるようにしたいと思っているんです。例えば、人間は膝や肘を伸ばした姿勢がとれ、それを活かして大きな力を出すなど、器用な動きや効率的な動きをすることができます。ロボットでそれを実現しようと思うと、やはり制御が難しいのですが、なんとかそういう動きができるようにしたい。また今後は、今取り組んでいる人の動きの計測などを応用して、センサから得た情報から何か役に立つことを取り出し、それをロボットや機械の動きに応用していきたいと考えています。
■ロボットモーション研究室(関口研究室)
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/com/dep.html?id=158
■コンピュータサイエンス学部WEB
https://www.teu.ac.jp/gakubu/cs/index.html