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「光老化の研究を通して、考える力と応用力を養い、化粧品業界で活躍できる人になろう!」

応用生物学部 正木 仁 教授

応用生物学部 正木 仁 教授

今年4月に本学へ赴任し、この7月から本格的に光老化研究室がスタートしたばかりの正木先生。これまでは企業で化粧品やその原料開発、皮膚科学の研究に関わってこられました。そんな先生が本学でこれからどのような研究を始めるのか、その詳細を伺いました。

紫外線を浴びた細胞

■先生の研究室では、どのような研究に取り組んでいく予定ですか?

紫外線や活性酸素の関わりによって、皮膚がどう変化していくかという研究を扱うつもりです。皮膚に紫外線が当たると、シミやシワができたり、保湿力が低下したりと、肌にトラブルが起きますよね。そういう紫外線トラブルによって肌が衰えることを“光老化”と呼びます。当研究室では、そうした皮膚と紫外線の関係について研究していきます。
具体的にどういうことをするのかというと、例えば、人の皮膚の表面にある角層に注目した研究があります。角層には実はいろいろな情報があって、光老化が起こると角層に酸化タンパク質が増えるということがわかっています。そこで学生に、皮膚のタンパク質がどれほど酸化しているかを調べる実験をしてもらいます。よく太陽に当たる身体の部位と、そうでない部位の角層をセロハンテープで取ってきて、スライドガラスに移し、染めてみるのです。すると紫外線が当たっている部位は緑色に光るのですが、当たっていない部位は光りません。こうした実験を通して、まずは角層細胞の声を聞くということをしてもらいます。ですから研究室に所属した学生は、真っ先に角層を提供することになります(笑)。
また、皮膚は分化する組織で、一番下にある基底層と呼ばれる部分で細胞がつくられ、それが表面に上がってきて角層になり、最終的には垢としてはがれます。その分化していくときに必要となる酵素が、角層にはかなり残っています。それを抽出して、測定しようと思っています。太陽によく当たる部分とそうでない部分、それから季節変化もあるので、季節ごとに測定していきます。その結果を受けて、今度は、なぜそういうことが起こるのか原因を調べるために、皮膚の培養細胞を使ってメカニズムを解明していきます。
それから、光とはあまり関係ないのですが、活性酸素の研究も行うつもりです。特にアトピー性皮膚炎の方の皮膚を調べたいと思っています。私たちの皮膚の表面、つまり角層はセラミドという物質で固められていて、それが表皮バリアとなって外部からの刺激や内部から水分が奪われることを防いでいます。アトピーの方は、その表皮バリアが壊れていることが多いので、その原因を皮膚科のある大学と共同で調べてみるつもりです。

皮膚の細胞の様子

■研究の最終目標は、どんなところに置いているのですか?

どの研究も最終的には、皮膚で起きている問題を改善する素材をつくるところまで持っていくつもりです。素材開発は、皮膚の培養細胞で始めて、そこで可能性を見つけたものをヒトで試してみて、本当に効果があるのかどうかを検証したいと思っています。これは研究室のポリシーのひとつですが、やはり目的のある研究をしたいと考えていて。私は企業出身者で、企業はものをつくることが、その活動の基本です。研究室は企業ではありませんが、もしこの研究室の研究成果から生まれたものが、本当に良いものであれば、社会貢献に繋がりますよね。そういうふうに研究を社会に還元したいのです。また、基礎的な研究も大事ですが、学生にはそれを応用できる人になってほしい。ですから、この研究室に所属した学生には、できるだけ「自分で考える」ことを強要するつもりでいます。例えば、何か課題があったときに、学生に「なぜこうなるの?」という問いかけを絶えずします。学生は、自分で調べるなり考えるなりして、それに対するソリューションを提案しなければなりません。それを受けてこちらも、すでに明らかになっていることであれば、合っている・間違っているということを伝えますし、まだ全くわかっていないことであれば、実験してみようという方向へと持っていきます。つまり学生に、自ら考え、行動し、結果を考察することを求める研究室なのです。
それからもうひとつのポリシーとして、外部研究機関や大学、企業とのコラボレーションを積極的に進めていくつもりでいます。それは共同研究に限らず、例えば企業の研究員を研究室に招いて小さなセミナーを開いてもらうというような関わり方でも良いと思っています。そうすることで、学生に社会に対するイメージをつけてもらいたいのです。

■外部と関わることは、学生の刺激にもなりますね。

そうなんです。私自身、大学や大学院で研究しているときは、アウトプットが見えず、自分の研究が何につながっているのか、わかりませんでした。けれど、それが見えているのとそうでないのとでは、研究に対する意気込みが全然違ってきます。ですから、できるだけアウトプットを見せながら研究をして、そのアウトプットが化粧品会社のニーズとマッチしているという形に持っていけたら理想だと思いますね。

■先生ご自身が皮膚の研究を始めたきっかけは? また研究の魅力とは何でしょう?

皮膚に関わるようになったのは、企業に入ってからです。最初に入社した製薬会社が医薬部外品を扱っていて、そこで化粧品に触れて、面白いと思ったのです。その後、化粧品会社に転職して、化粧品の開発に長く携わりました。皮膚の勉強をしに医学部へ通ったのも、この頃です。それから化粧品の原料を扱う会社に転職し、原料開発にも関わってきました。
研究の面白さを実感するのは、自分が立てたプラン、描いたストーリーが、実験で証明できたときですね。まずスキームを書いて、実験をして、結果を見ると、すぐに「絶対、思った通りに動いている!」とわかります。そして実験後にデータ処理をしてみると、やはり思っていた通りだと。こういう感動を、学生にも味わわせてあげたいと思っています。

■最後に今後の展望をお聞かせください。

研究室では、卒業研究とは別で、スキンケアのフォーミュレーションを勉強する実験をしようと考えています。フォーミュレーションとは、クリームや乳液など、化粧品をつくることを言います。進め方としては、決められた材料を混ぜ合わせるだけの実験より、自分たちで解明していくほうが楽しいと思うので、学生の前に指標となる既製品をひとつ出して、「これと同じものをつくりなさい」というふうに進めるつもりです。まずは、商品に表示されている素材を集めるところからはじまりますが、それもかなりのトライアンドエラーが必要になります。まず、配合のパーセンテージがわかりませんよね。また、表示はあくまでも表示名称であって原料名ではありません。同じ表示名称で表される原料は、たくさんあります。ですからその商品に何が使われているのかは、わかりません。大変な実験ですが、これによってフォーミュレーションを組む力がつきます。その力は、就職のときに、かなり強みになると思います。できれば学部で講座を設けてもらえると良いのですが、今はまだないので、片手間ですが私の研究室で挑戦してみようと思っています。
また、研究では紫外線だけでなく、赤外線のことも扱いたいと思っています。ひとつはメイラード反応といって、アミノ酸やタンパク質と糖分を加熱すると、褐色物質を生成する反応があります。おこげやカラメルがそうです。それと同じことが、皮膚の中でも起きていて、AGE(メイラード反応後期生成物)という老化物質が皮膚に蓄積されていくのです。そして、それは紫外線や赤外線によって増えていきます。その辺りを詳しく研究していきたいですね。また、アトピー性皮膚炎と関係が深い、カルボニル化タンパクという酸化タンパクと、酸化に関係するカタラーゼという酵素を減らす研究にも携わることになりそうです。某大学の研究室がその研究を食品の視点から行っているのですが、今、そことの共同研究を考えているところです。外部と積極的に関わって、将来的には化粧品・美容業界で活躍できる、即戦力となる学生をこの研究室から輩出したいと思っています。その先輩たちの活躍が、後輩たちに良い影響を与えてくれるようになるとうれしい限りです。
[2011年6月取材]

・次回は8月12日に配信予定です。

2011年7月8日掲出