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「さまざまな分野の技術や知識を融合させて、新しい価値を生み出したい!」

メディア学部 天野直紀 講師

メディア学部 天野直紀 講師

本学が現在の学部構成に改組される以前の、工学部機械制御工学科と大学院工学研究科出身という天野先生。現在は、メディア学部でネットワークと画像処理・認識技術をベースに教育支援や生活支援のシステム開発や研究を手がけています。今回は、その研究例をいくつか取り上げて、お話しいただきました。

■先生の研究について教えてください。

ひとつは、学内で実際に使用している「ASSIT」という教育支援サービスの研究開発があります。これは、オンライン上でレポート提出や授業の出席確認、授業評価アンケートの回答などができるシステムです。ちょうどメディア学部が開学した11年前、学生はノートパソコン必携という本学ならではの方針が決まって。そこで、そのノートパソコンを学内でさまざまなことに活用できるようにしようと、教育に付随するサービスをオンラインで提供する仕組みをつくることになったのです。そういう経緯で生まれたのが「ASSIT」です。ですから運用を始めて、もう約10年になりますね。もともとはメディア学部で使うためにつくったものですが、現在は、八王子キャンパスの全学部で使っています。また、この4月からは一部、蒲田キャンパスでも導入される予定になっています。
「ASSIT」の具体的な仕組みを説明すると、学生はこのシステムにアクセスし、用意されているさまざまな設問の中から自分のしたいことを選びます。あとはテキストを入力したり、ファイルを添付したりして送信するだけ。この“ファイルを添付できる”という点は、このシステムで一番重要なポイントです。というのもメディア学部の場合、テキストに書けるものばかりが提出課題ではないからです。例えば、映像や画像をつくるとか音声をつくるという課題があります。このシステムを使えば、そうした課題を学内はもちろん、家からでもインターネット経由で提出でき、教員は一括で回収することができます。また、「ASSIT」は個人認証をしているので、誰が何時何分に提出したかをきちんとサーバー側で管理しています。ですから誤ってデータが消えたり、誰の提出物かわからなくなったりなんて問題は起きません。

AssitClient

■学外からもアクセスできるとなると、出席確認をする場合はどうするのでしょうか?

「この部屋からしか提出できません」というふうに設定ができます。出席確認の場合は、その日、その時間の授業の教室からしか登録できないように教室制限を設けられるのです。レポートの場合は、期間だけ設定しておいて、教室制限を設けないようにしておけば、学内・学外問わず提出ができるというわけです。

■なるほど。では「ASSIT」の開発で、新たに取り組んでいることはありますか?

最近、コンピュータソフトウェアのソースコードを自動採点する機能の開発に取り組みました。これはすでに完成しているのですが、まだ「ASSIT」には組み込んでいません。実際の授業では責任問題もあって、自動採点を使った成績評価はできないので、実用化に結び付けることが難しいのです。ただ、私が担当しているプログラミングの授業では、学生がつくったプログラムを採点するときのダブルチェックとして使用しています。基本的に採点は人の手で行うのですが、もしかすると採点ミスもあるかもしれません。一番まずいのは、正解のものを間違いにしているケースです。ですから人の手で採点した後、さらに自動採点システムにかけてダブルチェックとして使っています。今後はこのシステムを自己学習に繋げられたらいいなと思っています。自習用サービスとしての提供なら実用化できるのではないかと考えているのです。
あとは、少し「ASSIT」に関連するもので、学習行動に注目している研究があります。これは教育支援と生活支援の中間に位置する研究になります。

■それはどのような研究ですか?

学習行動というのは学習そのものではなく、それに伴う行動のことです。例えば、いつ宿題をしているかとか、宿題を締切ギリギリに提出する学生と1週間前に提出する学生との違いとか。先ほどの「ASSIT」では、直接的に集めているのは学生が提出するレポートなどのデータそのものですが、それに付随して、いつどこでそれを作成し、いつ提出したかという行動情報も集められています。そうした情報と成績を見比べて、どんな関係があるかということを調査し始めているところです。
また、自習室などで学習しているとき、人はいろいろなことをしています。中には勉強せずに居眠りをする人もいることでしょう(笑)。そこで自習中の行動をシステム的に捉えて、指導カルテのようなものを自動的につくれないかと考えています。例えば、教室内にカメラがついていて、自習室内の様子をチェックする。ひとつは防犯の役割がありますし、もうひとつは、今お話しした学習行動を捉える役割があります。これを私は「見守り型の自習室」と呼んでいます。カメラを通して学生が居眠りをしているとか、一生懸命鉛筆を動かして勉強しているということをある程度の精度で認識し、それを学習にフィードバックできないかと考えているのです。例えば、先生が学生の学習行動を見て、「この学生は自習室にいても、いつも居眠りしているから成績が悪いのかな?」とわかれば、昼間眠くならないように生活リズムの指導をすることができます。逆にがんばって勉強しているのにできないという学生には、学習方法の指導が必要だとか。そういう学習サポートが行えるのではないかと思い、力を入れて研究しています。今、研究室では、規範となるデータベースづくりを行っているところです。やはり元となるデータと比較しないと、簡単には学習行動を認識できないのです。その元となる部分をつくるために、今は3D計測ができるジャングルジムのような枠を組んで、その中に机を置いて、学習している姿を3D計測しているところです。

見守り型自習室の構想

■先生がこうした研究を始めたきっかけとは何だったのでしょうか?

私はもともとロボットビジョンというロボットに搭載したカメラから得られる画像でもって周辺状況などを計測・認識する技術を研究していました。ですからメディア学部に来るまでは、ネットワークやデータベースはあまり扱っていなくて(笑)。「ASSIT」の開発をするなかで、いろいろなことを身につけていったというかんじですね。「ASSIT」の開発は実務的な面が強いですが、一部、教育支援システムの研究として取り扱うようになってきて、今では私の研究の中でもかなりのシェアを占めています。一方、「見守り型の自習室」は、久しぶりにロボットビジョンの研究で扱っていたセンシング技術とインターネット技術を組み合わせた研究になります。今のところ教育環境での使用を想定していますが、行動認識はさまざまな分野で活用できる可能性があるので、いずれこの研究で得られた結果をもう少し生活支援寄りの研究に役立てたいと思っています。

■最後に今後の展望をお聞かせください。

今は、さまざまな分野の技術が網羅された時代に入っていると思います。さまざまな分野で、それぞれ研究されてきたことが網羅された状態です。もちろん、まだできないこともありますが、それでもかなりのことができるようになっています。ただ、それを実際の生活や日常に適応しようとすると、そこにはまだつながっていないことがたくさんあります。そして実は、全く違う分野の技術を持ってくることでうまくいったなんてこともあるのです。分野と分野がクロスする部分は、まだたくさん残っています。メディア学部の学生は、いろいろな分野の考え方を広く学びます。いわゆる技術と呼ばれるもの以外のものも含めて、さまざまな分野が寄り集まっているのがメディア学部です。それは学びだけでなく、教員もそうです。ですから研究者、そして教育者としては、そうした異なる分野の技術や知識を融合させることで、より役立つもの、より良いサービス、何か新しい価値みたいなものを生み出して、実社会に還元していけたらと思っています。
[2011年2月取材]

・次回は4月8日に配信予定です。

2011年3月11日掲出