大学の学びはこんなに面白い

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研究・教育紹介

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人間が何をどう考えているのかを解明したい!

コンピュータサイエンス学部 グリムベルゲン ライエル 教授

■先生の研究についてお聞かせください。

私はゲームをしているときの人間の思考を研究し、それをコンピュータで再現するということを試みています。この研究の根底には、人間が何をどう考えているのかを解明したいという思いがあります。しかし、人が考えていることを明らかにすることは、非常に難しいです。例えば、お腹がすいたとき、私たちが何を食べるかという選択肢は非常に幅広くありますし、食べ物を手に入れる手段もさまざまです。大学内で考えても、食堂へ行く、マクドナルドへ行く、食べ物を売っている店へ行くというように選択の範囲は幅広いのです。また、食べ物を手に入れるには、お金が必要ですよね。お金が足りないときは、アルバイトするとか友だちに借りるといった、何らか行動が必要になります。このように人は日常生活において、非常にたくさんの選択可能な行動を持っています。ですから生活の中で、人がどんなことを考えているのかを研究することは、とても難しいのです。
そこで当研究室では、ゲームを使い、限定された簡単な人の行動を通して、人が何を考えているのかを探究しています。ゲームの世界にはルールがあって、あることができても、あることはできないというように非常に限定されています。また、ゲーム内で解決すべき問題、つまり達成すべき目的は、ただ“勝つ”ことのみです。ですからゲームを使えば、人間の思考が比較的わかりやすくなるということが言えるのです。

■研究では、どんなゲームを扱っているのですか?

例えば、将棋があります。今は、ふたつの将棋プログラムをつくっていて、ひとつは「人間の考え方を再現する将棋プログラム」、もうひとつは大会に出てプロ棋士を倒す「強い将棋プログラム」です。なぜ、研究をふたつに分けているかというと、将棋プログラムの“強さ”は、必ずしも“人間らしいもの”ではないからです。将棋の場合、局面の可能な手(ルール上で指せる手)の平均的は80手です 。私がつくった将棋プログラムでは、12手先まで探索、つまり先読みが可能です。できるだけ先読みをして、どの手が良いか、悪いかを判断し 、その中から一番期待できるものを最初の一手に選びます。ただ、コンピュータは手数が増えるほど、先読みが難しくなります。例えば、最初に自分が50手、相手にも50手の可能性があると、50×50で2500手も考えないといけません。一方、人間はそこまで手数を気にする必要がありません。それより手の質の方が大事なのです。初心者は無駄な手を見ますが、上級者は無駄な手を見ません。しかしコンピュータが、無駄な手、局面に関係ある手、関係ない手を区別することは難しいです。ですから、人間とまったく同じ思考をコンピュータにさせるということは、一筋縄ではいかないのです。ただ、そこのところは、私が一番掘り下げたい部分でもあります。ですから「人間の考え方を再現する将棋プログラム」の方では、認知科学的な理論を使って将棋プログラムをつくるというプロジェクトに取り組んでいます。マービン・ミンスキーという世界的に有名な研究者がいます。彼は人間の脳が問題解決のために、どう動いているのかということを説明する「The Society of Mind(心の社会)」理論をつくった人です。彼の理論をゲーム、とりわけ将棋プログラムに応用しようと研究しています。

■先生が認知科学に興味を持った理由とは? また、将棋を知ったきっかけとは?

これといって特別なきっかけではありませんが、子どもの頃から周りの友だちが何を考えているのか、わからないというところがあって(笑)。他の人は何を考えているのだろうということに、ずっと興味を持っていました。他人と考えがぶつかると、相手の考え方は自分とは全然違っているとわかりますよね。では、なぜ違っているのか。そこに興味があり、知りたいと思っていたのです。大学では情報科学を学びましたが、修士課程からは認知科学に関連したことが学べる心理学部に入りました。博士課程では、今、扱っているゲームとは関係ない研究をしていました。ヨーロッパやアメリカでは、字を読めない子どもが多く、問題になっています。理由は簡単で、bやdといったアルファベットには、あまり情報がなく、非常に区別しにくいからです。そうした文字の学習に障害があることをDyslexia(ディスレクシア)、日本語で識字障害と言います。それを診断するシステムを開発していました。識字障害を持つ子どもたちの、どういうところに問題があり、どんな練習をさせると問題点を改善できるのかを診断するシステムです。
将棋との出会いも、大学時代にありました。私はもともとチェスが趣味で、大学にチェスクラブはないかと、あちこちの友だちに聞いて回っていたのです。すると、そのうちの一人がチェスではないけれど、このゲームが面白いよと勧めてくれたのが、将棋でした。人生とは不思議なもので、私の母国であるオランダ国内で将棋をしている人は、わずか200人ほどしかいません。その中のひとりと大学で出会い、私はチェスからすぐに将棋に乗り換えたのです。将棋の魅力は、相手の駒を自分の駒(持ち駒)として使えるところにあります。それができると、例え負けていても最後まで逆転のチャンスがあるのです。私はチェスをしていた頃から、最初に間違って、後から挽回するタイプでした(笑)。チェスでは最初に間違うと、勝ち目はまずありませんが、将棋はそうではない。逆転できることがうれしくて、将棋に夢中になったのだと思います。
将棋との出会いも、大学時代にありました。私はもともとチェスが趣味で、大学にチェスクラブはないかと、あちこちの友だちに聞いて回っていたのです。すると、そのうちの一人がチェスではないけれど、このゲームが面白いよと勧めてくれたのが、将棋でした。人生とは不思議なもので、私の母国であるオランダ国内で将棋をしている人は、わずか200人ほどしかいません。その中のひとりと大学で出会い、私はチェスからすぐに将棋に乗り換えたのです。将棋の魅力は、相手の駒を自分の駒(持ち駒)として使えるところにあります。それができると、例え負けていても最後まで逆転のチャンスがあるのです。私はチェスをしていた頃から、最初に間違って、後から挽回するタイプでした(笑)。チェスでは最初に間違うと、勝ち目はまずありませんが、将棋はそうではない。逆転できることがうれしくて、将棋に夢中になったのだと思います。

■最後に今後の展望をお聞かせください。

現在、取り組んでいる「強い将棋プログラム」をつくることと、「人間の考え方を再現する将棋プログラム」の開発は続けていきます。しかし、将棋の研究は、あと10年もすれば終わるでしょう。遅くとも2020年には、そのとき一番強い将棋プログラムが将棋の名人に勝つと思います。私がつくったプログラムでそれを達成できると良いのですが、そればかりはわかりません。将棋プログラムを研究している研究チームは多数ありますからね。あとは、さまざまなゲームプログラムを開発して、学生たちと一緒にコンピュータゲーム世界選手権などに参加できればと思っています。これまで学生に研究をさせるときは、あまり知られていないAmazonsやClobberというゲームを使ってプログラムをさせてきました。あまり知られていないゲームだからこそ、学生はいろいろなことに挑戦できるのです。過去にコンピュータゲーム世界選手権に参加したときは、私の研究室の大学院生が開発したAmazonsプログラムが、2度、受賞しています。
また、最近はビデオゲームにも興味を持っています。ビデオゲームの場合、人はコンピュータを相手にしてゲームをします。その相手となるコンピュータを人間らしくするにはどうすれば良いかということを考えたいと思っています。今、インターネットを使ったオンラインゲームがすごく人気ですよね。オンラインでゲームをする大きな理由は、対戦したり一緒に冒険したりする相手が人間だからです。これについてはまだ私自身、勉強中ですし、コンピュータにどのように人間らしい動きや自然言語の理解をさせるのかといった部分での難しさはありますが、新しい研究だと思っています。このあたりも、これから学生たちと一緒に研究できたらと考えています。
[2009年7月取材]

・次回は9月11日に配信予定です。

2009年8月7日掲出