「制作から産業構造まで、音楽をとりまくすべてを体感してほしい」
メディア学部 講師 吉岡英樹
■先生がご担当されている授業や研究について教えてください。
私の専門分野は、音楽制作です。中でも本学では、映像コンテンツにおける音楽や効果音の制作を中心に扱っています。授業としては、音楽制作の入門となる「DAWベーシック」、要はコンピュータで音楽をつくるということを教えたり、もう少し踏み込んで音響について学ぶ「レコーディングテクニック」を担当しています。また、メインの研究には、本学片柳研究所クリエイティブ・ラボと株式会社竜の子プロダクションとが共同で制作した3Dアニメ作品「SKY KIDS BOOBY」のサウンド制作があります。このアニメーションの制作は、学生のプロジェクト演習として行われています。そこに私が担当している「サウンドデザイン」という3年生のプロジェクト演習を連携させ、できあがったアニメーションに学生たち自身が効果音をつけていくということを行っています。音楽制作の初心者であっても、入門から順を追って技術を学ぶことができますし、最終的には音響技術だけでなく、演出といったことも学べるようになっています。
■映像に音をつけることと一般的な音楽制作とでは、どんな違いがあるのでしょう?
映像の場合は、第三者によるシナリオがあります。一方、一般的な音楽はゼロから自分でつくりますから、自分なりの感性だったりストーリーだったりが必要になってきます。そういう違いがありますね。先に述べた「サウンドデザイン」のプロジェクト演習が良い例ですが、「SKY KIDS BOOBY」にはきちんとシナリオがあります。ですから効果音をつけるときは、映像の制作チームから音に対する指示書をもらい、それを見ながらどういう音をつけていこうかと計画を立てていきます。必要な音がなければ録音しなければならないし、場合によってはシンセサイザーで音をつくることもします。
■先生が“映像コンテンツにおける音楽”に、興味を持ったきっかけとは何でしょうか?
中学3年生のときにアメリカのマーチングバンド「ドラムコー(drum corps)」のビデオを観て、魅了されたことからではないかと思います。日本ではあまり知られていませんが、ドラムコーとは打楽器や金管楽器を使った音楽と動き、いわゆるビジュアルがひとつになったエンタテインメントです。それに非常に興味を持ち、高校卒業後はアメリカへ留学し、ドラムコーの団体で活動していました。ですから私自身はずっと音楽業界で仕事をしてきましたが、常に音楽だけでなく映像と一緒に何かしてみたいという気持ちを持ち続けていたのです。今後もその気持ちは変わらないと思うので、きっとこれが私の一生をかけたテーマになるのだろうと思っています。
■では、授業や研究を通して、学生にどんなことを学んでほしいとお考えですか?
音楽そのものだけでなく、それをとりまく環境も知ってもらいたいですね。今、インターネットの普及により、アーティストや音楽をとりまく環境が大きく変化してきています。世界的にも有名なアーティストや歌手たちが、レコード会社から離れて、音楽を発信したり…。そういう激動の音楽産業の中で、それぞれにどういった役割があるのか。例えば、業界内にはどういう会社があり、どういう構図になっているのかというようなことを実践的な学びの中で知ってほしいです。また、本学で学ぶ学生は、自分で音楽をつくることとは別の形で音楽に携わる仕事をしたいと考えている人が多いです。ただ、どんな仕事があるのかをまだよく知りません。ですから授業を通して、そういったことを体感してもらい、学生たちの選択の幅を広げたいと考えています。例えば、自分は音響に向いていない、それならインターネットの方向に進もう、あるいは営業の仕事はどうだろう?というように、自分の可能性を確認することに役立てればと思っています。
■そうしたお考えを踏まえて、具体的に取り組んでいることはありますか?
ちょうど本学の大学祭“紅華祭”を皮切りに、“TUT MUSIC SUPPORT”という新プロジェクトをスタートさせました。これは在学生でミュージシャンとして活動している “fuu”と“ダイスケ”という二人のアーティストの活動を支援していくというプロジェクトです。ただ単に音楽を制作するだけでなく、例えばCDをつくるとなると、ジャケットや宣伝用の写真が必要になったり、ミュージックビデオ、ホームページなどもつくったりしなければなりません。このように、ひとりのアーティストをとりまくさまざまなコンテンツの制作を、プロジェクト演習を受けている学生はもとよりメディア学部全体で、さらには外部の音楽業界の方たちも巻き込んで、サポートしていこうとしているのです。まずは“紅華祭”でお披露目ライブをし、このプロジェクトを多くの方に知ってもらうところから始めました。大学にはこういうことを実現できる環境があるのだということを学生たちに知ってもらい、どんどんプロジェクトに加わってもらえればうれしいです。
■最後に、これからのビジョンをお聞かせください。
やはり“TUT MUSIC SUPPORT”を軌道に乗せることですね。今は、単にアーティストをサポートしている形ですが、将来的にはそこからいろいろなコンテンツをつくるという方向へ発展させたいです。また、そうすることで教員だけでなく学生も含めて、メディア学部内の横のつながりを強化していければと思っています。さまざまなコンテンツが合わさり、大きなアピールとして大学から社会へ発信していくことを期待しています。また、そこから派生する研究にも力を注ぎたいですね。メディア学部には表現・技術・環境という3つの専門科目群があります。表現はまさに音楽制作ですし、技術は音響技術、そして環境という面では、さっきお話しした音楽産業がそれに当たるかと思います。この音楽産業については、すでにメディア学部の大山昌彦講師が中心となって研究に取り組んでおられます。ですから私もそうした研究と連携しながら、今回のプロジェクトを発展させていければと考えています。
[2008年10月取材]
■吉岡英樹(専任講師)Webページ
http://www2.teu.ac.jp/media/~yoshioka/
■TUT MUSIC SUPPORT
http://www2.teu.ac.jp/music/index.html
・第12回、第13回は11月14日に配信予定です。