1新たなおいしさを学問する!
おいしさの追求から人々の健康を支える食品へ
食品には「栄養機能」、「嗜好性機能(おいしさ)」、「健康維持機能(病気の予防)」の3つの機能があります。
栄養が足りている現代社会では、食品の第2機能である「おいしさ」が最も重要だと考えられます。
毎年多くの新しい食品が世の中に登場しますが、「おいしい」食品だけが生き残っています。
おいしさの追求から人々の健康を支える食品の開発が求められています。
現代社会において、今や食品はクオリティ・オブ・ライフの向上に欠かせない重要な役割を演じています。
食品の新たな可能性を目指して
私たちは、栄養、おいしさ、健康維持といったキーワードに対して、化学的および生物学的なアプローチでこれらのメカニズムを解明し、上記3つの機能を兼ね備えた、新しい食品素材の開発を目指しています。
新たなおいしさを学問しながら、3つの機能を持つ食品の研究・開発に取り組んでいます。
おいしい食感を創り出す!
食品のおいしさを決めるのは、味だけでなく、食感も重要な要素です。例えば、衣がベチャっとしたコロッケより、サクッとしたコロッケの方がおいしく感じるでしょう。また、かまぼこもボソボソとした食感より、プリッとした食感の方がおいしく感じます。
食感は食品それぞれが持つ特徴(機能性)、すなわち、デンプンであれば糊化や老化、タンパク質であれば変性や構造変化を引き起こす温度や速度などに左右されます。そのため、これらの食品の機能性を理解して、食感をどのように創り出し、コントロールしていくかといった研究を行っています。
また、この他にも、食品のおいしさを維持するための冷凍保存技術や解凍技術に関する研究も行っています。
食用油および油脂食品の品質劣化機構の解明と評価法および防止法の開発
私たちは、安全で安心なおいしい油脂食品を消費者に提供するために、フライやてんぷらなどの加熱調理や油脂食品の保存中に起こる品質劣化のメカニズムについて調べると共に、品質の評価法並びに劣化防止法の開発に取り組んでいます。
フライ調理などの加熱調理を長時間行うと、目が痛くなったり、気分が悪くなることがあります。このような現象を「油酔い」と言います。この原因物質はアクロレインと呼ばれる化合物で、食用油に含まれる多価不飽和脂肪酸のリノレン酸が酸化分解されて生じることを私たちは明らかにしました。
また、食用油を加熱すると嫌な臭いを呈するカルボニル化合物(アルデヒド・ケトン)と呼ばれる物質が生じ、フライ食品の品質を低下させます。私たちは、カルボニル化合物を比色定量するカルボニル価(ブタノール法)と呼ばれる試験法を開発しました。
その他、モンゴル遊牧民の伝統的油脂食品について脂質栄養学的観点から評価するなど機能性脂質の開発にも取り組んでいます。
有機酸のアンチエイジングへの応用
細胞内のエネルギー代謝に関与する有機酸という化合物に着目して、アンチエイジングへの応用を目指しています。有機酸は極めて毒性が低く、果物などに高濃度に含まれています。有機酸のエネルギー代謝における役割はほぼ明らかになっていますが、細胞死における役割は不明な部分が多く残っています。特別な化学構造を有する有機酸が活性酸素を抑制することを発見しました。有機酸が神経細胞を保護することによって、脳を保護するのではないかという仮説を立て、これを目標に研究を行っています。
老化やアレルギーに作用する成分の研究
近年急増している花粉症などのアレルギー疾患や、高齢社会における老化に伴う疾患は、深刻な社会問題となっています。当研究室では、花粉症やアトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどの免疫疾患や、老化が関連する疾患を予防する機能性食品を研究しています。これまでに、コーンシルク(トウモロコシのヒゲ)のアレルギー予防効果を発見。そのほか、「金時草」という野菜と乳酸菌の組合せによるアレルギー抑制や、小麦などの穀物外皮に存在するアルキルレゾルシノールという成分の老化抑制効果なども調べています。これら食品素材は健康機能に有効のみならず、おいしさも包含しており商品化が期待されています。
発酵食品中に存在する微生物を調べる
本研究室では、ヨーグルト・漬物などの発酵食品中に存在する微生物の研究に取り組んでいます。これまでに、あまり報告されていなかったPediococcusという種類の乳酸菌がアレルギー抑制活性を持つことを見つけました。また、発酵食品中から微生物を短時間で生きたまま取り出す方法を開発することにより、ヨーグルト中では乳酸菌が形態変化を起こして生存している様子を観察することに成功しています。このほか、乳酸菌は腸内で有用な働きをすることが知られていますが、口から腸に到達するまでに抗菌作用を持つ胃酸や胆汁にさらされます。乳酸菌を色々な培地で培養することにより、胃酸や胆汁耐性に変化が生じるか調べています。