ローズマリー由来のカルノシン酸が新型コロナを抑制する可能性~新たな作⽤メカニズムを論⽂発表~
東京工科大学(東京都八王子市、学長:大山恭弘)応用生物学部の佐藤拓己教授らの研究グループは、ハーブの一種であるローズマリー由来のカルノシン酸(CA)が、新たなメカニズムで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を抑制する可能性を示す論文を発表しました(図1)。
この抑制は新型コロナウイルスの遺伝子変異の影響を受けないため、ウイルスの株の種類に関係なく抑制できることが期待されます。またCAは脳への高い移行性を有するため、COVID-19の脳における後遺症にも効果がある可能性が考えられます。
本成果は、米国スクリプス研究所のスチュアート・リプトン教授らとの共同研究によるもので、酸化ストレス学のトップジャーナルである「Antioxidants」オンライン版(1月6日)に論文掲載されました(注1)。
[図1] ローズマリーとカルノシン酸(CA)の化学構造
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【研究背景】
ローズマリーは多様な生理活性物質を含みます。その中でカルノシン酸(CA)は、リウマチなどの炎症性の慢性疾患に対して強い抑制作用を有します。同研究グループは、新たな脳保護剤の創製を目指して20年近くにわたりローズマリー由来のCAを研究してきました。その過程でアルツハイマー型認知症の抑制など様々な生理機能を明らかにしてきました(注2)。本研究では、(1)感染の成立の抑制、及び、(2)重症化の起点の抑制 の二つの側面から、COVID-19を抑制する可能性を検討しました(図2)。
[図2] ローズマリー由来のカルノシン酸が新型コロナウイルスの感染と重症化を抑制する可能性
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【研究内容】
CAは(1)ウイルスの感染を抑制します(図3A)。新型コロナウイルスは気管上皮細胞への侵入から感染が始まります。その際ウイルス粒子はACE2という膜タンパク質(注3)に結合します。本研究は、CAがACE2タンパク質に結合するために、ウイルス粒子がACE2に結合できないことを発見しました(図3B)。
[図3] ローズマリー由来のカルノシン酸が新型コロナウイルスの上皮細胞への結合を阻害する
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[図4] ローズマリー由来のカルノシン酸が新型コロナウイルスによるサイトカインストームを抑制する
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【社会的・学術的なポイント】
新型コロナウイルスは、口腔から気管上皮を経て肺に至ります。感染が気管上皮にとどまれば軽症であり、肺まで拡大すれば重症化します(図5)。他の薬剤とは異なり、CAは感染と重症化の両方を抑制できる生理活性物質であるという点で、COVID-19の収束に向けた新たな知見として注目されます。また、古来から世界中で利用されてきた薬草であるローズマリーが、現代のパンデミックにおいて最先端の医療に役立つ可能性があるという点においても、興味深い成果であると言えます。
[図5] ローズマリー由来のカルノシン酸が新型コロナウイルス感染症などを抑制する可能性
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(注1) 論文名:Potential Therapeutic Use of the Rosemary Diterpene Carnosic Acid for Alzheimer’s Disease, Parkinson’s Disease, and Long-COVID through NRF2 Activation to Counteract the NLRP3 Inflammasome (掲載URL https://doi.org/10.3390/antiox11010124)
(注2) 論文名:Therapeutic advantage of pro-electrophilic drugs to activate the Nrf2/ARE pathway in Alzheimer's disease models (掲載URL https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5261011/)
(注3) アンジオテンシン変換酵素2。ACE2は、血圧を上昇させる作用を持つアンジオテンシンⅡというホルモンを分解し、血圧を降下させる。SARS-CoV-2はACE2と結合して細胞内に侵入することが知られている。
(注4) 新型コロナウィルスは肺胞内に到達すると、NLRP3を介して肺のマクロファージを活性化し、重症化の起点になる炎症に関与するサイトカインを大量に放出するとされている。
(注5) 参考文献: Nrf2 Activator PB125® as a Potential Therapeutic Agent against COVID-19 (掲載URL https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7346195/)
(注6) 炎症反応を引き起こすためのタンパク質複合体を構成するNLRP3は、活性酸素や変性した蛋白質など感知して複合体を活性化させ、炎症性サイトカインを放出させて炎症を誘導する。
■東京工科大学応用生物学部 佐藤拓己(アンチエイジングフード)研究室
ミトコンドリアは人間の体内で細胞の生死を司るという決定的な役割を持っています。私たちの研究テーマは、活性酸素などに注目してミトコンドリアを活性化させる分子の機能を解き明かすことです。 [主な研究テーマ] 1) 有機酸によるミトコンドリアの保護効果 2) ビタミンCによるガン細胞の消去
[研究室ウェブサイトURL]
http://www.teu.ac.jp/info/lab/project/bio/dep.html?id=34
■応用生物学部WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/bionics/index.html