映画の特集上映を学生がプロデュース!
2023年10月27日掲出
メディア学部 メディア社会コース 森川美幸 講師
10月20日~26日、池袋HUMAXシネマズにて、特集上映「青春~私たちが知りたい、みんなの青春のかたち~」が開催されます(※10月2日取材)。この特集上映は、株式会社ヒューマックスシネマと連携し、メディア学部の学生が企画から宣伝、上映までをプロデュース。その経緯や学生たちの奮闘ぶりを、このプロジェクトを指導した森川先生にお聞きしました。
■今回、学生たちが映画館での特集上映を企画・宣伝したプロジェクトについて教えてください。
メディア学部には、プロジェクト演習という1年生から専門性の高いテーマに実践的に取り組むことができる演習があります。そのプロジェクト演習の中で、今年度から私が新たに始めた「映画配給/宣伝プロデュース」というプロジェクト内での取り組みになります。これは映画興行会社の株式会社ヒューマックスシネマ(以下、ヒューマックス)とのコラボレーション演習として始まりました。いきさつを話すと、昨年の5月頃、ヒューマックスから私の研究室に、劇場として何か大学生と一緒に取り組みができないかというお話をいただきました。それは面白そうだということで、メディア学部の特色のひとつであるプロジェクト演習の中で、来年度から何か一緒に始めましょうとスタートしたのです。このプロジェクト演習では、学生たちが特集上映の企画を立てて、上映するまでを宣伝も含めてプロデュースするという内容です。学生たちが特集上映の企画をヒューマックスにプレゼンし、採用されれば、実際に上映されます。ただ、ヒューマックスにとって企画上映をすることは、配給会社への映画料の支払いや興行成績もあるので、当然、ビジネスになってきます。ですから、学生が提案した企画では劇場にお客さんを呼べないとなった場合は、採用しないということが前提でした。つまり、採用ありきで、必ずどれかの案が選ばれるわけではなかったということです。
今回のプロジェクトには、1年生から3年生が21名と、2年生、4年生各1名の聴講生を含む、総勢23名の学生が参加しました。最初は、特集上映の企画を立てるために、同じ方向性の企画を希望している学生たちをグループごとに分け、計5つのグループをつくりました。その時に出た各グループの企画のテーマが、今回、採用された「青春」のほか、「食」、「ノスタルジー」、「ハロウィン」、そして、俳優の菅田将暉さんの主演映画を集めた「菅田将暉特集上映」です。ちょうど10月に菅田さん主演の映画『ミステリと言う勿れ』が公開されるということで、それに合わせて特集上映をしようという案でした。これら5つのグループごとに、それぞれコンセプトやターゲット層の設定をしたり、映画をセレクトしたり、ざっくりとした宣伝活動について考えてもらうなどし、企画をまとめていきました。
そして各グループのプレゼンをヒューマックスに見ていただき、まずはその中から2チームを選んでいただく形で進めました。ヒューマックスとしては、どのグループの企画も良かったので、このまま5グループ全部を残そうかということも検討されたそうですが、最終的には「青春」と「ハロウィン」の2グループに絞られました。ハロウィンは、毎年恒例の企画にできる可能性があるということもあり、評価を得たようです。そして、落選した3グループの学生はどちらかのグループを選択し、「青春」と「ハロウィン」の2グループが再編されました。
次に、実際に企画が採用されて上映されるとなった時、どういう宣伝展開をするのかを、その2グループで考えてもらいました。グループ内で、例えばSNSチーム、館内展開チーム、ビジュアルポスター・チラシチーム、ニュースリリースチームといった形に分かれ、それぞれ宣伝展開を考えていったのです。それらをグループでまとめて、もう一度、ヒューマックスにプレゼンし、最終決定をしていただきました。結果、「青春」が選ばれ、特集企画が決定したという流れです。
ヒューマックス側もとても丁寧に、5グループそれぞれに評価を出してくださり、本当にありがたかったですし、教育的にも大変、良かったと思います。どういうところがコンペで負けてしまった原因かも含めて、きちんと学生がわかるように評価をくださいました。
2回目のプレゼンで「青春」グループが選ばれた後は、学生全員を「青春」グループとして、宣伝展開の役割ごとに担当分けをしました。例えば、SNS展開チーム。SNSで「あなたの青春映画を教えて」など、さまざまなキャンペーンを展開していきます。館内展開チームは、劇場内にポスターを貼るほか、例えば90年代へタイムスリップということで、AIを使ってあなたの写真を90年代のアニメ風に変換しますというブースを設置するというアイデアが出ました。これはかなりメディア学部の学生らしい提案だと言えますね。あとは、あなたに観てほしい青春映画が出てくる映画診断。これらは会場にカメラなどを設置し、専用のアプリやサイトをつくって実施しようと進めています。
また、公開前に特集上映の認知を広げる試みとして、「青春おみくじ」も展開します。青春エピソードや今回の上映作品の紹介が載ったおみくじを作成し、公開前に劇場に来られた方に配布したり、くじを引いてもらったりします。また、「あなたの青春エピソードを教えて」という掲示板を設置し、記入いただいたものを貼るということも考えています。
あとは大学内展開チーム。本学の大学祭である紅華祭で、宣伝用のチラシを配る計画です。それからチラシ・ポスターチーム。これは、いわゆるデザインチームです。今回、宣伝用ポスターに使った田園風景の画像は、このチームの学生の地元である群馬県の景色を撮影したものです。どこかから借りてきた画像ではなく、学生が自分で撮影した写真を使ってデザインしています。レイアウトやキャッチコピー、タイトルなども、全て学生たちが考えて、つくりました。もちろんたくさんのトライアンドエラーがありましたが、学生同士でどういうデザインが良いかを話し合って、決めていきました。
もちろん、こうした映画の宣伝は、経験や知識の不足もあって、学生だけでは進めにくいところがあります。そこで今回は、私以外に演習講師として、長く映画の権利や宣伝に携わられている高田和子先生を招き、ご指導いただきました。高田先生は私が新卒で入った会社の直属の先輩だった方です。私自身、宣伝の現場から離れ、制作に移ってからの方が長かったので、今の宣伝がどういうものなのかを詳しく知りません。そこで高田先生にお力をお借りして、このプロジェクトに当たりました。
■では今回、採用となった「青春」をテーマにした企画について教えてください。
「青春」というアイデアが最初に出たのは、ある学生が母親と映画を観た後の会話で、お互いの思っている青春、送ってきた青春が全く違うことに気づいたからです。そこから人それぞれの「青春」をテーマにしてはどうかと考えたようです。青春とは、例えば恋愛などキラキラしたものだけではなく、人それぞれに色々な青春があるはずです。また、ちょうど学生たちの世代が新型コロナウイルスの蔓延で、制限のある日々を過ごしたため、あまり青春を謳歌できなかったということも背景にありました。そこで、この特別上映の企画が、世代を超えた青春を語り合う機会になればという思いを込めて提案したということです。ですから今回のターゲット層は、学生の世代はもちろん彼らの親世代も対象に設定しています。上映作品も4本中3本は、親世代が青春を過ごした80~90年代を舞台にした外国映画で、『恋する惑星』、『mid90s ミッドナインティーズ』、『シング・ストリート 未来へのうた』を選びました。残りの1本は、邦画を選んでいます。2015年に公開された『私たちのハァハァ』という、女子高校生たちの自然な会話が印象的な松居大悟監督の作品です。
もともと邦画を入れておくと良いということは、私からアドバイスしました。というのも邦画があれば、それにまつわる何かしらの劇場イベントができるかもしれないからです。結果的に、今回、スペシャルイベントとして、『私たちのハァハァ』を監督された松居監督を招いてのトークショーを企画できました。松居監督も大学生が企画をするということで興味を持って、今回の話を引き受けてくださいました。
■先生から見て、学生はどんなところで苦労していましたか?
グループをまとめることが大変そうでしたね。各グループでリーダーを決めて、まとめていくのですが、やはり全員が映画好きとして参加してはいますが、全員を同じ方向に向かせたり、全員の意見を集めて吸い上げたりということが難しく、統一するのに苦戦している様子でした。また、学生には、もう少し色々な種類の映画を観てほしいなとも思います。普段、観ている映画が、マーベルやディズニーといった超メジャーなところに偏りがちで、セレクトの幅が狭いという印象を持ったので。メジャー作品の上映権を取ってきて、上映するというのは、正直、難しいですからね。
作品のセレクションに関しては、今回、上映されることになった4作品以外にも、たくさんの候補がありました。ただ、今、お話ししたように、映画上映には必ず権利関係の確認が必要になります。配給権がなければ、上映はできません。そういうことも踏まえて、学生には複数の作品をリストアップしてもらい、権利関係の確認はヒューマックスにしていただきました。その辺りが実際に特集企画を立てる難しさのひとつだと言えます。何でも好きな作品を上映できるわけではありませんから。
そもそもディズニーやマーベル、ハリウッドのメジャー作品は、権利的に無理だということはわかりやすいのですが、実は古い作品も上映できなかったりします。実際、80年代に大ヒットした邦画が候補リストにあったのですが、権利の問題で上映が難しいことがわかりました。また、当時、フィルムで撮影された作品で、まだデジタル化されていないものは、フィルム上映をすることになります。そうなると、機材の用意などで費用がかかるので、上映が難しくなることもあります。ですから、ここ10年以内に国内で公開されているものか、近年リバイバル上映されるなど劇場で公開されたことのあるもの、あるいはDVDが出ている作品であれば、国内のどこかの会社が配給権を持っていると想定できるので、そういうものの中からセレクトしてもらいました。こうした制限のある中で、学生たちは上映作品を選ばなければならないため、その辺りも苦労したところではないかと思います。
■では、今後の展望をお聞かせください。
10月20日~26日の特集上映期間を終えたあとは、実際に興行としてどうだったかという総括や評価をヒューマックスと一緒に行います。その結果の影響もあるかもしれませんが、今のところ、来年度もこのプロジェクトを継続していく予定です。また、このプロジェクト演習以外でも映画関連のことができればと考えているところです。来年度のカリキュラム改定で、メディア学部ではプロジェクト演習をさらに発展させた「社会連携プロジェクト」という外部企業と協力したコーオプ教育のようなものが始まる予定です。まだ具体的ではありませんが、そこで何かできればと考えています。
■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。
高校までの勉強は、学校の中にとどまっていて、実社会との結びつきをなかなか感じにくいのではないかと思います。受験のための勉強という要素も大きいため、それがどう社会と結びついているのかまでは、分かりにくいことでしょう。ですが大学の、特に演習系の授業は、ダイレクトに実社会と結びつくことができる勉強が多いです。中でも本学のメディア学部のプロジェクト演習は、自分たちの立てた企画が、ある企業にとってのビジネスにつながっていて、実際にその企画が実社会で実現します。それは高校では、なかなかできないことだと思います。
もちろん、大学であればどこでもそういう経験ができるというわけではなく、東京工科大学のメディア学部だからこそ、という面があります。自分たちが立てたプランを、自分たちがつくって発表する、しかも世に出せるという醍醐味を感じられるのは、メディア学部ならではです。
特に映画が好きな人、映画の宣伝に興味がある人、映画のポスターやチラシのデザインに興味がある人は、ぜひメディア学部に入学してもらいたいですね。本来は社会に出てから経験するようなことを、学生時代に経験できるということは、とても貴重ですよ!