学長コラム第6回「読書のすすめ② ――進路を決めた一冊」
こんにちは、学長の大山です。前回は私の心に残っている本をいくつか紹介しました。今回は大学時代、私の進路を決めるきっかけとなった本についてお話ししましょう。
大学3年生のときの教科書で、とても大切にしているものがあります。『基礎システム理論』という本で、その著者は後に私が所属することになる研究室の指導教官でした。当時、私は制御工学を勉強していて、ロボットを思い通りに動かしたいと思っていました。その教科書は授業で使われていたものですが、当時では新しい制御理論の本で、その考え方が非常にすっきりしていて、とても納得したことを覚えています。例えば、人を説得しようとして私が話すとき、私は相手から同意してほしいと思って話しています。話してみて、その人が意図と異なる反応をすると、その反応に基づいて、私は話し方を変えます。つまり、話をしながら「この人はこういう人」という人物像をつくって、その人物像に基づいて同意してもらえるように話し方を変えていくわけです。制御では、これを、話すという入口と相手の反応という出口、またその間をつなぐ人物像という内部モデルの3つに分けて考え、目的に合う出口の結果を得るために、内部モデルを考えながら入口の話し方を変えていくというように捉えます。ロボットでは、その中身は機械ですから、機械を思い通りに動かすために、その動きを運動方程式という数式モデルできっちりと表して、その式に基づいてモータ指令を操作ればよいことになります。
今から思えば、当たり前のことではありますが、そのときは、なるほどと思いました。この教科書との出合いをきっかけに、制御工学を研究したいと思いましたし、それを書いた先生の研究室に入ろうというきっかけにもなりました。ただし、その後の研究では、「実際には教科書通りにはいかない」ということの連続でした。実物では、教科書通りの運動方程式が得られないことが多いのです。ですから大学の教科書は、「正解、これでうまくいく」ということだけが書かれているわけではく、考え方の基本を教えてくれるものであると考えるべきですね。
2回にわたって、私の思い出の本を紹介してきました。私としては、みなさんにどんな本を読んでほしいといったことは特に申しません。ただ、本との出合いが何かを与えてくれることも少なくありませんし、自分の興味を広げるきっかけにもなります。また、文字の中から自分のイメージを広げるトレーニングにもなりますので、受験勉強の息抜きはもちろん、大学生になってからも、ぜひ色々な本を読んでみてほしいと思います。