2015年に国連加盟国により、2030年までの達成をめざす全世界的な目標である「持続可能な開発目標アジェンダ2030(SDGs)」が採択され、産学官がその実現に向けて動き始めています。
東京工科大学では、それ以前より重要な教育目標として、持続可能な社会の実現に貢献する人材育成を掲げています。応用生物学部で取り扱うテーマも、SDGsに関連するとともに、私たちの生活と強く結びつくものが多く、先進的なバイオテクノロジーを医療、食品、環境などの産業へ活用するための教育、研究を進めています。ここでは各専門コースがめざす持続可能な目標と個々の教員の関連テーマを紹介します。
生命科学・医薬品専攻
生命科学コース
人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進するためには、様々な疾病を正確に診断したうえで、適切な治療を行なうことが重要です。生命科学・医薬品専攻の生命科学コースでは、ゲノム情報に基づく疾病の診断法や、生体分子と計測技術を融合させた病気診断用バイオセンサーなど、超早期・簡易な診断法や診断システムの研究開発に取り組んでいます。また、本コースは持続可能な社会に貢献する環境分野の課題解決も重要な目標としており、排水処理、砂漠化、酸性雨といった国際的に重要な環境問題に対処するための研究を進めるとともに、環境モニタリング、バイオエネルギー、生物資源の確保と活用などに関する次世代技術の創生をめざしています。
教員名 | テーマ名 | SDGs |
吉田亘 | 遺伝子発現制御医薬品の探索 | |
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中西昭仁 | 二酸化炭素を炭素源とした光合成微生物による有用物質の生産 | |
加柴美里 | 加齢によるミトコンドリア劣化のメカニズムの解明 | |
秋元卓央 | 環境汚染物質を検出するための微生物バイオセンサーの開発 | |
浦瀬太郎 | 膜利用型水処理技術の開発と衛生面での効果の解析 | |
多田雄一 | 植物の耐塩性機構の解明 | |
多田雄一 | 空気浄化植物の開発 | |
松井徹 | 微生物による石油成分の脱硫分解 | |
松井徹 | 微生物ライブラリーの構築と利用 |
遺伝子発現制御医薬品の探索
吉田亘
遺伝子のスイッチとして働いているエピジェネティック修飾やDNAの特殊構造に着目し、それら修飾状態や構造を制御する分子を探索することで、遺伝子特異的に発現を制御できる医薬品を開発する。
二酸化炭素を炭素源とした光合成微生物による有用物質の生産
中西昭仁
光合成微生物である緑藻は、一般的な陸生植物に比べて10~50倍高い炭酸固定能を有し、二酸化炭素から炭水化物や油脂などのエネルギー資源や植物性の二次代謝産物を高生産する。そこで遺伝子工学的な手法をもって目的の有用物質を効率よく生産する緑藻を新規に創生し、二酸化炭素を炭素源に高い物質生産性を実現できるシステムの構築を目指す。
加齢によるミトコンドリア劣化のメカニズムの解明
加柴美里
加齢のメカニズムを解明することにより、健康寿命を延ばし、健康的で持続可能な社会を目指す。具体的には、細胞内小器官のトコンドリアに注目し、細胞を元気にするメカニズムの解明を目指す。
環境汚染物質を検出するための微生物バイオセンサーの開発
秋元卓央
土壌中の環境汚染物質を簡単に測定するために、遺伝子組み換え微生物を利用したバイオセンサーの開発を行う。
膜利用型水処理技術の開発と衛生面での効果の解析
浦瀬太郎
膜を用いた水処理技術によって、衛生的な処理水を高度な維持管理要員なしで得ることができる。膜利用型水処理技術の適用範囲を広げるための技術開発と薬剤耐性菌の広がりを抑える効果など、水質面での装置の多面的機能を検証する研究をしている。
植物の耐塩性機構の解明
多田雄一
ソナレシバやマングローブの耐塩性機構を解明し、作物等の耐塩性を強化するために応用する。特に、カリウムトランスポーターと耐塩性との関係について詳細に調べている。
空気浄化植物の開発
多田雄一
ホルムアルデヒド等の建材由来の有機物はシックハウス症候群の原因物質である。全ての植物は気孔からホルムアルデヒドを含む各種気体を吸収して分解・同化している。植物のホルムアルデヒド浄化能力を強化することで空気浄化植物を開発する。
微生物による石油成分の脱硫分解
松井徹
石油に含まれる酸性雨の原因物質ジベンゾチオフェンを分解する微生物を用いて、燃焼効率を維持したまま、原因物質を分解することで、酸性雨を起こさない燃料を開発する。
微生物ライブラリーの構築と利用
松井徹
国内、国外提携地より産業微生物を分離、培養抽出液を備えたライブラリーを構築し、環境、医療、食品、化粧品など各種産業利用をはかる。
生命科学・医薬品専攻
医薬品コース
人生100年時代を迎え、いかに豊かな100年間を生きるかは、人類共通の大きな課題です。しかし、日常生活を支障なく過ごせる期間を示す「健康寿命」は、男性で約72歳、女性で約75歳 とされ、豊かな人生を過ごすには“健康維持”が最重要なポイントになっています。生命科学・医薬品専攻の医薬品コースは、SDGsが掲げる「すべての人に健康と福祉を」の達成を目標に、最先端の生物工学技術を駆使した医療、医薬研究に取り組み、豊かで持続的な人類の反映をめざします。まだ治療法が確立されていない疾患に対する診断や治療開発をめざした“アンメット・メディカル・ニーズ”も意識しながら、人材育成と研究開発を進めていきます。
教員名 | テーマ名 | SDGs |
加藤輝 | 細胞内物質の蛍光可視化技術の開発 | |
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佐藤淳 | バイオ医薬品としてのヒトラクトフェリン製剤の開発 | |
杉山友康 | 六価クロム汚染環境の浄化技術 |
細胞内物質の蛍光可視化技術の開発
加藤輝
独自の機能性RNAを用いた疾患に関わるRNAなどの細胞内物質の蛍光イメージング技術を開発し、医薬品探索技術や細胞診断技術に応用する。
バイオ医薬品としてのヒトラクトフェリン製剤の開発
佐藤淳
自然免疫で機能するラクトフェリンに着目し、安全性に優れたバイオ医薬品として開発する。
六価クロム汚染環境の浄化技術
杉山友康
六価クロムは産業利用価値のある化学物質だが、その有害性のために環境汚染は厳しく監視されている。近年、既知の汚染源(皮なめし加工工場、メッキ処理工場)に加え、土壌・地盤改良工事等が汚染源になりうることも指摘されている。六価クロムは分解不可能だが、無害化・不溶化することで汚染環境を非汚染状態に変換可能である。本浄化技術は微生物を用いてその様な変換を行う。私たちは地域の企業と共同で技術の実用化も行った。今後の技術利用拡大が望まれている。
食品・化粧品専攻
食品コース
現在、食品産業の多くが海外に原材料を依存しています。こうした状況では、持続可能な農林水産物の確保に向けて、生産者の生活を安定させることが非常に重要です。そこで食品・化粧品専攻の食品コースでは、農林水産物の持続可能性を保ち、安定的に確保していくための取り組みとして、食品の廃棄ロスの減少に貢献する研究を行っています。具体的には、野菜などの食品の未利用部分の有効活用につながる新たな健康機能性の探索研究や、油脂の劣化を防ぐことで油脂の長期利用拡大を図る方法の研究、新しい冷凍保存技術などの開発による賞味期限の延長をめざす研究などを進めています。
教員名 | テーマ名 | SDGs |
遠藤泰志 | 油脂および油脂食品の劣化機構の解明とその防止法の開発 | |
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佐藤拓己 | 有機酸によるアンチエイジングの研究 | |
西野智彦 | 乳酸発酵食品の賞味期限の延長 |
油脂および油脂食品の劣化機構の解明とその防止法の開発
遠藤泰志
食用油脂や油脂を含む食品を保存すると、油脂の酸化劣化が起こる。また食用油脂を加熱調理に用いた場合、加熱により油脂の劣化が起こる。これらの油脂の劣化は、油脂並びに食品の品質の低下を招くだけでなく、劣化した油脂や食品を摂取した場合に、ヒトの健康を害する恐れがある。本研究では、油脂の酸化劣化の機構を明らかにするとともに、防止法の開発を行う。
有機酸によるアンチエイジングの研究
佐藤拓己
エネルギー基質である有機酸に注目し、アンチエイジング効果のある機能性食品を開発する。有機酸はフルーツや野菜などにも多量に含有されている。
乳酸発酵食品の賞味期限の延長
西野智彦
牛乳や野菜などの腐敗しやすい食材に乳酸発酵を行うと、食材の可食期限を延長させることができる。つまり、乳酸発酵食品の製造は、持続可能な農林水産物の確保に向けた取組みとして、食品の廃棄ロスを減少させることにつながる。
食品・化粧品専攻
化粧品コース
美の追求は人間の根本的な欲求であり、化粧品は人間のQOL(生活の質)向上に必要なツールと言えます。事実、高齢者に対するメイクアップセラピーでは、被検者の積極性が増し、他人との交流の機会が増えるなど、認知症の予防や改善、ADL(日常生活動作)の維持・向上効果が期待されています。また、皮膚を健康に保つことは健康寿命を伸ばすことにつながると考えられます。食品・化粧品専攻の化粧品コースでは「すべての人に健康と福祉を」をキーワードに、人と環境にやさしい化粧品の開発、化粧品の作用とメカニズムの解明、化粧品が人や社会に与える効果の検証などを推進。超高齢化社会における化粧品の役割と可能性を追求し、持続可能な社会に貢献していきます。
教員名 | テーマ名 | SDGs |
岩渕徳郎 | シグナル分子による毛髪・肌細胞及び幹細胞の制御の研究 | |
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柴田雅史・伊澤千尋 | 植物由来原料を用いた化粧品・香粧品の開発 | |
藤澤章夫 | 活性酸素種を同定する新規マーカーの開発 | |
前田憲寿 | 植物からの有用物質の探索 |
シグナル分子による毛髪・肌細胞及び幹細胞の制御の研究
今村亨・岩渕徳郎
毛髪・肌細胞及び幹細胞の運命や機能を支配するシグナル分子に着目し、時代を超えて人体の健康寿命の延伸とQOL向上に役立つ医薬品・化粧品と利用技術を開発する。
植物由来原料を用いた化粧品・香粧品の開発
柴田雅史・伊澤千尋
界面活性剤、ゲル化剤、着色剤、ポリマーなど現状では石油資源を用いて製造が行われている化粧品・香粧品用成分を、安全安心性が高く、持続可能資源である植物由来原料へと置き換える研究をおこなう。
活性酸素種を同定する新規マーカーの開発
藤澤章夫
種々の疾病に活性酸素種(ROS)が関与していると考えられる。そこで、生体内で発生するROSを同定するマーカーを見出し、新規抗酸化療法の開発につながる知見を得る。
植物からの有用物質の探索
前田憲寿
植物から皮膚に有用な物質を抽出して、化粧品用・美容食品用の原料として研究開発する。
環境因子が皮膚生理機能に及ぼす影響とその改善策の提案
正木仁
太陽光線に含まれる各波長各波長や熱、湿度が皮膚の生理機能に及ぼす影響とその作用メカニズムを明らかにする。作用メカニズムから改善策を提供する。