1あしたの地球をデザインする
生物が持つ多様な機能を地球環境のために役立てていく
地球には70億人以上の人々が暮らしています。多くの人々の暮らしを支えるには、積極的に地球の能力を引き出す必要があります。もし、水が足りないところでも農作物を育てることができたら、あしたの地球の姿が違ってきそうです。
地球上には動物、植物から微生物まで、たくさんの種類の生物がいます。そうした生物のなかには、食料や燃料など人の生活に不可欠なものを生産したり、私たちが汚してしまった環境をきれいにしたりする力を持ったものがいます。生物のもつ機能はとても複雑で、多様性に富んでいるので、まだ、見つかっていない夢のようなはたらきをする生物もきっといるはずです。そのような生物を見つけて、遺伝子レベルの知識や技術(バイオテクノロジー)を使ってその機能を解明して利用することも可能です。また、生物の機能を環境改善や環境診断(バイオセンサー)に用いるためのシステム化、装置化、チップ化などの実用化研究にも面白い課題がたくさんあります。
砂漠緑化といった地球レベルから、水処理技術などの日常生活レベルまで、応用生物学部では、あしたの地球をデザインする人材を環境分野の先端的研究を通して育てています。
バイオセンサーであしたの地球を守る
微生物のなかには、環境汚染物質を分解したり環境汚染物質に応答して特別なタンパク質を発現するなどの、特殊な機能をもつものがいます。そこで私の研究室では、微生物のもつこれらの特殊な機能を利用して、環境汚染物質の新しい検出方法を開発しています。遺伝子組み換え技術などを利用して、微生物から環境汚染物質の検出に有用な遺伝子を取り出し、他の微生物に導入することで効率よく環境汚染物質の検出を行います。また、人工的にタンパク質やDNAを設計し、環境汚染物質の検出に利用したりもします。将来は、環境汚染物質の検出だけでなく環境の浄化にも役立てたいと考えています。
水処理技術であしたの地球へ貢献する
都市に住む人にとって、上水道は必須であり、環境への影響を小さくするためには下水道も必須です。半導体製造などのハイテク産業や水族館でも、高度な水処理技術が使われています。水環境工学研究室では、様々な場面で用いられる水処理技術の研究をしています。とくに注目している技術が膜分離活性汚泥法という技術です。実は、いま広く普及している排水処理方法も微生物を使ったものですが、私たちが注目している技術では、微生物を処理装置のなかに閉じ込める効果が今までの方法より格段に優れています。この特徴を利用して、有害物質を高効率で分解することや病原微生物の環境への流出を最小化する研究を進めています。
耐塩性植物で地球の明日をつくる
世界の耕地の1/3は塩害を受けており、耐塩性植物の作出は食糧増産や緑化に重要なテーマです。我々は、海水の3倍の塩濃度(1.5 M NaCl)に耐えられるソナレシバの耐塩性機構を解析しています。一般に、塩類=ナトリウム(Na+)土壌では、Na+の流入によりカリウム(K+ )の吸収が抑制されますが、ソナレシバはK+濃度を高く維持できます。ソナレシバのカリウム運搬タンパク質(SvHKT)を導入した植物は、 K+蓄積量が増大し、低濃度のK+条件でも生育できます。SvHKTを利用して以下の植物の開発に取り組んでいます。
▽SvHKTを利用した植物開発の取り組み
・K+肥料が不要な作物
・除草剤が不要な作物
・耐塩性植物
「あしたの地球」へ微生物を活用する!
微生物は、細菌を例にとっても土壌、植物、海洋など自然界に1030個以上存在するといわれており、その機能も様々です。現在では、その資源をどのように探し、活用していくかが課題になっています。当研究室では、自然環境の豊かな沖縄離島地域等から、産業に活用するための微生物ライブラリーを構築し、その性質を調べています。これまで、酸性雨の原因物質を分解する細菌の他、石油類などの環境汚染物質の分解微生物を発見してきました。さらに、地域拡大(高尾山周辺など)、微生物種拡大(酵母、乳酸菌など)の研究も進めています。バイオプロセス工学研究室にとっての「あしたの地球」は、このように発見した様々な微生物と「おともだち」になり、豊かな生活を創っていくことです。